《貴様ぁーっ!》と《おのれぇーっ!》との違いは?
二つとも 一般に怒りを伴なって叫んでいる場合のせりふです。
《個人》という人間の問題であり 《自己同一性》のそれです。なぜなら いづれの場合も 相手に向かって
その相手よ。あなたは《自己の同一性》を見失っているではないか?
我れに還れ! そうすれば このような事態を引き起こしておいて 平
気でいるわけがないはずだ。
と訴えていると考えられるからです。(いま その正否は別とし得るでしょう。つまり 表現の問題だということにもなります)。
そして 《自他の区別》の問題にもかかわります。
【Q‐1】 前者の《貴様ぁーっ!》の場合は そのように叫ぶ自分と相手との区別がついていると言うべきでしょうか?
【Q‐2】 後者の《おのれぇーっ!》というのは 《貴様》と呼びかけるだけではなく 《相手自身》のことを言ってその自己意識を呼び起こして 事態を明らかに見てみろとでも言っているのだと考えられます。ならばこれは 自他の区別がついているでしょうか?
【Q‐3】 ただしつまりは いづれの場合も 《自分自身》を基準にして《人間》を捉えており その《おのれ》にもとづくなら 《わたしがわたしである》アイデンティティは守られるはずだという前提を置いているようです。このとき 自他の区別はついていますか?
ついているから しかも人間にとっての普遍的な人間性(自然本性)のことを大事にしようとしているのでしょうか?
【Q‐4】 近頃 このように怒りの感情を顕わにして叫ぶ人を見かけなくなったように思いますが どうでしょう? そしてもしそうであるなら それは どういうことが起こっていると言うべきでしょうか?
(α) 個人が確立し自他の区別がきちんとつくようになったから ことさら声を荒げて叫ぶ必要がなくなったのではないか。
(β) いやいやそうではなく 人びとに共通の人間性――あるいは飛躍して神の霊? あるいは仏性?――が信じられなくなったので 《おのれ》を共有することもなくなった結果なのではないか。
(γ) あるいは その他その他(?)。――《貴様ぁーっ!》と《おのれぇーっ!》とに違いがあって その違いによって事情は異なると言うべきなのだろうか?