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津波で塩害の田んぼはどうなったの?
「東日本大震災では津波のため多くの田んぼが浸水し、塩害などのため作付けができないといった問題があると聞きました。米の収穫シーズンも終わり、新米の出荷が始まっていますが、米どころの東北で被害を受けた田んぼはその後どうなったのですか」=匿名
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■地域により復興格差 青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の太平洋岸6県によると、津波により流失・浸水した水田は計1万8687ヘクタール。これは平成22年の6県の全耕地90万900ヘクタールの2%に相当する。うち宮城県が1万1600ヘクタールと6割以上を占めた。 6県によると、このうち代かきなどの除塩作業により今春、米の作付けができたのは1974ヘクタール。被害を受けた水田の1割にすぎなかった。 農林水産省が先月22日にまとめた農業の再開状況によると、6県から福島を除き栃木、新潟、長野を加えた8県の農家などは、7月11日時点で73%が再開していた。栃木、新潟は100%が再開。岩手、茨城、千葉も9割を超え、青森、長野は8割以上が再開した。しかし、被害が深刻な宮城ではわずか34%。津波被害からの再開に限定すると、宮城が2割、岩手も1割にとどまっている。 主食用米全体の作付面積でみると、太平洋岸6県の23年産は津波や原発事故の影響で前年比7・4%減の37万900ヘクタールとなっている。特に福島が19・3%減と大きく減り、宮城も7・9%減となっている。生産調整(減反)を合わせると、23年の6県の収穫量は6・1%減の209万9千トンとなる見込みだ。 国の計画では、宮城、岩手、福島3県の浸水田で、来春までに復旧が間に合うのは4割にとどまっており、全面作付けが可能となりそうなのは青森、茨城、千葉の3県だけという。 この集計では、農業生産の準備を少しでも始めた場合「再開」と見なしており、全面的な再開には、まだ時間がかかるのが実情だ。特に宮城は再開の遅れが目立っており、他の地域との復興格差が顕著になりつつある。 ■ボイラー技術で収穫増 塩害を受けた水田のうち宮城県石巻市では、有用微生物を含む堆肥を使って土壌を回復させる実証試験が行われた。先月29日には待望の稲刈りも行われた。 石巻市は全耕地の2割に当たる2100ヘクタールが津波で浸水し、塩害や汚泥汚染などの被害を受けた。試験が行われた水田は同市南境の自営業、日野栄夫さん(60)の20アール。旧北上川の河川敷に広がる。「今年は収穫自体をあきらめざるを得ず、例年の半分程度収穫できれば十分という状況だった」(日野さん)という。 試験は福島県須賀川市のボイラーメーカー「福萬産業」などが行った。同社はボイラー技術を活用し、熱風を利用することで畜糞の堆肥を高機能化する技術を開発した。日本大学が調べたところ、微生物の力により塩分への耐性や病原菌の抑制効果、人体への安全性など有用性が確認されたという。 この堆肥を、日野さんから提供を受けた試験用水田に入れて、5月20日に田植えを行った。 同社によると、田植え前から2週間おきに水田の塩分濃度を測定したところ、堆肥を入れる前は塩害による成育障害が生じるとされる基準値の4倍あったが、その後は逆に基準値より2割程度低くなった。一方、代かきなど一般的な塩害対策を施した周辺の水田は、最大で基準値の3・8倍の濃度だった。 稲刈りの結果、日野さんの水田は例年以上の収穫があった。 同社の小林功一社長(58)は「最高目標値には及ばなかったものの、塩害を乗り越えただけでなく、より高いレベルの農地と土壌が作れた。収穫量も増え、品質も高い水準になったと言える」と話す。 ■太陽光発電へ転用? こうした事例はあるものの、土地改良や離農した農家の農地利用など、本格的な復興には、地域ごとに話し合う必要がある事項が多く、課題は山積している。 経団連は先月20日にまとめた規制改革要望に、塩害で耕作に適さなくなった農地を太陽光発電設備の建設用地に転用しやすくするとの要望を盛り込むなど、農業以外での利用を模索する動きもある。 政府は復興の工程表で3年以内の農地復旧を示しているが、住民が他の地域へ避難しているような場合は、さらに困難さが増す。調整が長期化すれば、引き受け手のない農地が大量に耕作放棄地化する恐れもある。