ある遺伝子がデニソワ人と現生人類との共通祖先から持っているものか、独自に進化したものかは系統樹を描けば推測できます。
デニソワ人と現生人類が交雑しているという推測がされているのなら、共通祖先から持っている遺伝子ではなく互いに独自に進化した遺伝子が現生人類の中に見られる、ということなのでしょ。
共通祖先から共通している遺伝子からこんな推測を導いていたとしたら、そんな論文が査読を通るわけがないでしょう。
それはともかく、「互いに交配不可能」というのは別に種の定義でも何でもありません。今でも互いに交配可能な別種は、ニホンザルとタイワンザルやカニクイザルなどどれだけでもいます。
「互いに交配不可能な2つの動物」は間違いなく別種に分類されますが、別種が必ずしも交配不可能なわけではありません。
種の定義は別に確定しているものではないのですが、本質は「独立した遺伝子集団であること」です。
遺伝集団の独立性を確認するためには、生殖的に隔離されていることが必要です。
互いに交配不可能なことは生殖的隔離が成立している強力な証明になりますが、それだけが全てではない、ということです。
地理的あるいは時期的に隔離されていても生殖的隔離は成立しますから。
ニホンザルとタイワンザルも、両者の間には海があるので地理的に隔離されており、すなわち生殖的隔離が成立しているわけです。生殖的隔離が成立していて、かつ形態や性質に差が見られれば、両者は通常別種に分類されます。
もちろん地理的隔離が解除されれば両者は混血しますが。
デニソワ人は、現生人類の祖先がまだアフリカにいる時代にアフリカを出てアジアに定住した旧人類です。
現生人類とは時代的にも地理的にも完全に生殖的隔離が成立していました。
数万年後に現生人類の祖先がアフリカ大陸を出て世界各地に散らばっていったとき、両者は再び出会ったわけですが、そのとき両人類がまだ交配可能であったか、既に交配不可能だったかは興味を持たれていたことです。
ミトコンドリアのDNAを解析して現生人類のDNAにはネアンデルタール人の痕跡は皆無だった、としている報告もあります。
まあ、全ゲノムを比較したわけではないので(ネアンデルタール人もデニソワ人も断片的なDNAしか採取できないでしょうから)、どこかに痕跡が見つかった時点で、従来の「痕跡は見つからない」という報告は無力化するのでしょうかね。
もちろん系統樹の計算の仕方もいくつもあるので、デニソワ人の遺伝子、とされているものが共通祖先から持ち込んだもの、という可能性ももちろんゼロではないのです。報告者はそうではなくデニソワ人が独自に進化させた遺伝子が現生人類に見つかっている、と主張しているのでしょうが。
いずれにしろ、デニソワ人やネアンデルタール人と現生人類が交配可能だった、ということは十分に想像できることです。
その程度の年月で交配不可能になると考える方が不自然かと思います。
お礼
ご回答ありがとうございます。 種の定義のことなど、大変参考になりました。