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新型インフルエンザの抗体はウイルスが変異しても有効?
ウイルスに関する医学的知識を持っていらっしゃる方に質問です。 現在大流行している新型インフルエンザは死亡者が非常に多いという訳ではなく、すぐに直る人の割合も多いようで「弱毒性」と考えられるかと思います。 この新型インフルエンザに罹患して、回復すると抗体を得られると思います。新型インフルエンザが変異して「強毒性」になった場合、現在の弱毒性ウイルスに対する抗体を持っていると、その変異体である強毒性ウイルスにかかりにくい、あるいはかかっても比較的軽症で済むという可能性はどれ位あるのでしょうか? 個人的には弱毒性から強毒性に変異する段階で、抗体が意味を成さなくなるように思うのですが。
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獣医師でウイルスに専門知識を有します。 インフルエンザの場合、「毒性」という言葉には2つの定義があり、多少混同して使われています。 1つめは「呼吸器限定感染型」と「全身感染型」です。前者が弱毒、後者が強毒です。 もうひとつは単に病原性が高い低いの強毒型、弱毒型という言い方です。 アジアで鶏→ヒト感染が頻発しているH5N1は全身感染型という意味での強毒型が重要なのですが、今回のH1N1の新型では全身感染型に変異する可能性はまずないので、ここでは単に病原性が強い弱いという意味での「強毒型」の話とします。 全身感染型への変異はHA蛋白の変異なので、この意味での強毒型への変異はウイルスの抗原性の変異を必ず伴います。HA蛋白が細胞に感染する際に働くタンパク質で、このHA蛋白に対する抗体が感染防御能を持つわけですから。 ですが単なる病原性の強弱という意味での強毒変異は、必ずしもHA蛋白の変異を必要としません。NA蛋白やPB2といった蛋白の変異が病原性に影響すると言われています。 ということは、HAの変異がなくPB2のみが変異して「強毒型」になった場合は、ワクチンや感染抗体はそのまま効く、ということになります。 例えばHAが変異してNAが変異していない場合は、感染防御はできなくなるので感染~発症はするでしょうけど軽症で済む、ということも考えられます。ただ、日本のインフルエンザワクチンはHA蛋白だけを精製したものなので、ワクチン接種歴があってもNA抗体は作られていないので、この場合は効果がありません。あくまで感染歴がある場合だけです。(今後出てくる新型のワクチンが全粒子ワクチンなのかHAワクチンなのかは私は知りません) HAと比較するとNAやPB2といった他の遺伝子は遙かに変異が少ないので、アジアのH5N1に対してもソ連型に感染歴がある人はN1抗体が効いて軽症で済むのではないか、という報告があるくらいです。 というわけなので、回答は「変異した部位による」ということになります。 ちなみに基本的には遺伝子のどの部位も同じ確率で「変異」しています。まあ単純反復配列やGC率が高い領域は変異しやすいといったことはあるので、どの部位もまったく同じ確率、というわけでもないのですが、「基本的に遺伝子領域による変異率に差はない」と理解していただいて差し支えないでしょう。 では、インフルエンザウイルスのHAはやたら変異するのにNAやPB2、Mといった他の領域はそれほど変異しないのはなぜか、というと、それは「自然選択の結果」だからです。 HAはウイルスが細胞に感染する際に働く、例えるなら「細胞のドアを開けるための鍵」です。このHAに対する抗体があると、ウイルスは細胞に感染できません。 ですから流行が拡大して大半の人が免疫を持つようになると、"変異していないHAを持つウイルス"はだんだん生きる場所がなくなってくるわけです。 そこに"変異したHAを持つウイルス"が出現すると、そのウイルスにとっては前のウイルスに対する免疫を持つ人にも感染できますから、あっという間に以前のウイルスに取って代わってしまいます。 これが他の部位だと、NAやPB2、Mに対する抗体があっても、感染には影響がありません。(抗体は抗原に結合するだけです。抗体が直接抗原を攻撃するわけではありません) NAは細胞に感染したウイルスが増殖して細胞から出て行く時に関与する蛋白なので、抗NA抗体を持って人の体内ではウイルスは増殖性に影響があります。軽症化する可能性があるのはこのためです。ですが、感染能には直接影響がないので、HAの変異ほど強力な自然選択圧は受けないわけです。なので以前のNAを持つウイルスと速やかに置き換わることはなかなかできません。 というわけで、結果として我々の目には「HAの変異速度が速く、NAは遅い、MやPB2はさらに遅い」ということになるわけです。 一方、新型はまだ世の中の大部分の人が未感染で免疫を持っていませんから、HAが変異してもそれはあまり選択圧を受けません。以前のHAと変異したHAでは「有利さ」は何も変わらないことになります。 なので今この時点でワクチンや感染歴の効果がなくなるほどのHAの変異が起きる可能性は高くないです。もうしばらくして流行がさらに大きな規模になれば、HA変異ウイルスが出現することもまた確実です。 これは季節性のインフルエンザが毎年繰り返していることですし。 そうなればワクチンが効かなくなるので、また来年は来年でワクチンを作らなければならないわけです。これも毎年繰り返されていることです。
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No.2のJagar39です。 >結論として、今は「今の新型インフルエンザには、それによって重大な健康被害を被らない限り、"かかり得"」ということですね。 そうなる可能性が高いとは思いますが、必ずしもそうとは言い切れません。 問題は、世の中の多くの人が「かかり得」と考え、そのように行動(感染防止対策を真剣に執らない)した場合です。 そうすると、感染拡大の速度が非常に速くなることによって変異株の出現が早期化するかもしれません。となると最悪、現在製造しているワクチンもロクに効かないようなウイルスが冬には流行を起こしているかもしれません。 この場合、今罹患して抗体を作ったとしても、冬にはまた改めて感染する可能性があるでしょう。 もうひとつ、もう少し高い可能性としては、感染拡大速度が非常に速くなると、医療機関の対応が間に合わなくなります。診断から治療、タミフルの不足など全てに影響しますし、医療機関に患者が殺到して整然とした受け入れができなくなると、医療機関が新たな「感染拡大の場所」となってしまうリスクも出てきます。 そうなると、本来なら軽症で済んでいたはずの人が重篤化する危険性が飛躍的に増大しますし、助かったはずの人が犠牲になるケースも増えるでしょう。 「かかり得」になるのも裏目に出るのも確率次第でなんとも言えませんが、確実なのは「かかり得だから今のうちに罹ってしまおう」と考える人が増えれば増えるほど、裏目に出る確率が高まる、ということです。 なのでやはり感染防止に努めることが感染症対策の基本、ということに変わりはないわけです。 ベストな結果なのは、感染防止に努めて秋にワクチンを接種し、結局新型に感染しない、ということでしょう?そういうベストな結果になるかどうかも確率次第ではあるのですが。
お礼
再度のご回答ありがとうございます。 うーん。難しいですね。個人最適が全体最適につながらないという「囚人のパラドックス」みたいな感じですね。 以前と比べて格段に感染者が増えているのに、メディアの取り上げ方がそれ程でもないのは、「かかり得」と考える人が増えるのを防ごうという意図なんでしょうかね。
- aokisika
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「ウイルスに対する抗体」と呼んでいるものは、ウイルスそのものに対する抗体ではなく、「ウイルスの表面にあるたくさんの抗原のうちの一つに対する抗体」なのです。抗体はその抗原を攻撃するので、その抗原が表面についているウイルスは死ぬか不活性化するのです。 ということは、ウイルスが変異したときに、その抗体が攻撃する抗原が変化してしまうと、抗体は効かなくなりますが、攻撃する抗原が変化しないでそのままウイルスの表面についていればその抗体は有効です。
お礼
ご回答ありがとうございました。 どの抗原が変異するかで、結果が変わってくるということですね。
お礼
専門的なご回答、誠にありがとうございました。 時間はかかってしまいましたが、おおよそ理解できたと思います。 当分の間は『HAの変異が起きる可能性は高くない。HAの変異がなく、NA蛋白やPB2のみが変異して「強毒型」になった場合は、ワクチンや感染抗体はそのまま効く』つまり「現行の弱毒性ウイルスに罹患することで、短期的には将来の感染を防げる可能性が高い。」 また長期的には『流行がさらに大きな規模になれば、HA変異ウイルスが出現する』から、「現行の弱毒性ウイルスの罹患歴があるからといって感染を防げるわけではない。ただしNAやPB2、Mに対する抗体が有効に働けば、軽症ですむ可能性もある。」 結論として、今は「今の新型インフルエンザには、それによって重大な健康被害を被らない限り、"かかり得"」ということですね。