おばあさまの症状が悪化されたとのこと、HASURAAさまとご家族の方々のご心痛ならびにご苦労を
お察しいたします。
肝炎、肝硬変の患者さんを診察してきた印象から申し上げますと、医療行為そのものに過失を
問うことは難しそうですが、主治医の説明と対応には非常に問題がありそうですね。
このご質問内容からの推察に過ぎませんのでご参考程度にお読みください。
・慢性肝炎と肝硬変の関係について
肝炎ウイルスによって肝臓の細胞が持続的に破壊され、再生を繰り返します。
しかし、傷ができたところが治ってもケロイドが残るのと同様、破壊再生を繰り返すことで
正常の肝細胞としての機能を持った細胞ではなく、線維質の細胞に徐々に置き換わってゆきます。
それによって肝臓が「硬く変わる」、肝硬変へと移行してゆきます。そして、線維化した肝臓を
元の肝臓に戻す治療はありません。
慢性肝炎の状態から肝硬変になるというのは時間的に連続しており、ある日突然肝硬変になると
いうものではありません。外観や血液検査だけでは肝炎か肝硬変かの区別がつかないことも多いです。
確定診断には肝生検(肝臓に針を刺して肝臓の組織をとってきて調べる)を行うこともありますが、
最近では実施は減ってきました。
私自身の経験でも術前に血液検査や画像検査で慢性肝炎と診断した患者さんを、外科に肝臓癌
手術のためご紹介したら、開腹した時点で実際に触ってみたら肝硬変で手術を断念した、
ということもありました。それくらい区別が難しい病態です。
・肝硬変から肝不全へ
肝硬変で肝臓の機能が落ちても、肝臓はかなり進行するまで表に症状として出してきません。
つまり、症状が出たときにはかなり肝臓の機能が落ちている状態であることが多いのです。
肝臓が体内の様々な処理(消化や合成など)を行うのに大きく支障が出てくると、腹水がたまったり
黄疸が出たりという肝不全という末期状態になります。
肝不全の症状は徐々に始まる場合もありますが、ある日突然目立ってくることも多く、数日前には
一人で暮らしていた人が全く動けない状態になってしまうこともあります。肝不全の治療は対症療法
(本人の治癒能力を支えたり、症状を和らげるための治療)しかなく、本人の肝臓機能が持ちこたえて
くれればやや持ち直しますし、そうでなければ命に関わる状態になる場合もあります。
・インターフェロン治療について
慢性肝炎から肝硬変へ向かう病状の進行を止めるため、肝炎ウイルスを排除する目的で行われる
治療で、C型肝炎に対して根本的な治療といえばこれしかありません。
従来より副作用の少ないインターフェロンのお薬が増えてきたこともあり、今は積極的に導入
されています。つまり慢性肝炎で体力的、医学的に状況が許せばインターフェロン治療を行うのが
一般的な流れになってきています。
肝硬変に対してインターフェロン治療を行うこと、これも実は行われ始めています。肝硬変になって
しまった肝臓を戻すことはできませんが、肝臓癌の発生を抑制することができるからです。
尚、インターフェロン治療によって肝硬変を悪くすることなどは考えにくいです。
さて、今回のおばあさまについて考えて見ますと、インターフェロン治療を導入されていたという
ことは、主治医の先生は最新の医療知見をよくご存知でおられた証拠です。ただ、恐らく慢性肝炎と
考えて治療なさっていたのでしょう。
おばあさまが外来通院できて、治療をするかしないかおひとりで決められるほどしっかりなさって
いたということなら、治療によって延命が期待できる、そう思われて導入されたのではないかと
推察します。
治療前に肝硬変かどうかを調べるため、肝生検(前述)を行うこともありますが、生検自体の合併症
(出血など)の可能性と、肝硬変であっても機能が保たれていれば肝臓癌の抑制になるということが
判ってからは、生検によって慢性肝炎か肝硬変かを区別する意義が薄れ、昔に比べて治療前生検を
行う頻度は減ってきました。
「体調が悪くなり、入院するやいなや、肝硬変で末期の状態」、慢性肝炎や肝硬変の患者さんで
あればそのような経過となることは十分考えられます。。残念ながら何年何十年も診療してきた
専門の先生であっても、その人がいつ肝不全となるか、それを予測することはできません。
多くの人で区別が難しいように、実際には検査ではわからないような肝硬変で、更に不幸な
ことに肝不全への移行が急に出てくるような経過をたどってしまわれた。
おばあさまの病態がこういうことなら説明がつくように思います。
ではもし、事前に肝硬変だとわかっている人ならどうしたでしょうか?
おそらくインターフェロン治療をしないで様子を見ていたでしょう。前述のように肝硬変の進行を
止める画期的な方法はなく、肝臓を元に戻すことは不可能です。インターフェロンそのものは肝硬変に
対しては肝臓の炎症を抑えることで治療にはなっても害になっているとは考えにくいです。
人生にもしもはありませんが、肝硬変だとわかっていても、そうでなくても、インターフェロンの
治療があっても、なくても、見かけよりすすんでいる肝硬変の方は肝不全になっていたのではないかと
予想します。
主治医に落ち度があるとすれば、ご家族の方々への説明と対応が問題ではないでしょうか。あれから
ちゃんとご説明はしていただけましたか?
専門的な内容をたとえを用いて書かせていただいたので、長くなり失礼いたしました。
質問の本来のお答え(訴訟について)ではありませんので、専門家ではなく経験者として回答
させていただきました。
何らかのご参考になれば幸いに存じます。