1) まず、憲法改正、海外派兵といった国の将来を左右する基本的政策分野から、税制、医療制度、さらには道交法といったような国民の日常生活に直接影響を及ぼす政策分野に及ぶ、政策全般に亘る分野をカバーした「正真正銘」の大連立はまずありえないでしょう。理由は、衆議院の小選挙区制にあります。政策的に完全に歩調を合わせた大連立ということは、言い換えると2党が合体することと同じですから、次の総選挙に同じ選挙区から自民、民主の候補者が立つことはあり得ず、候補者は1人に絞ることになりますが、まず不可能でしょう。
2)しかし、憲法等基本的分野を除いた、税制、医療制度、さらには道交法といったような政策分野に限っての実質的連立ということはあり得ます。その都度両党で協議して、妥協のなった法律や制度だけを成立させていくということです。
3)なお、欧州では連立政権ということがしばしば見られますが、「正真正銘」の大連立は余りありません。現在のドイツの状態は、部分連立的大連立(両党の対立軸である基本的主張に関わる政策分野は実質的に棚上げし、当面必要な政策分野に集中して政権運営を行なっている)というべきものです。これが可能な理由は選挙制度にあります。
ドイツの選挙制度(定員598人)は「小選挙区比例代表併用制」と呼ばれ、有権者はまず小選挙区(299)の立候補者名で投票し、次いで比例代表選出のために政党名での投票を行います。そして、まず299人を小選挙区当選者として選び、次いで比例代表区投票(政党名)の得票数に応じて政党ごとの獲得議席数(合計299)を決める。これを受けて各党は獲得議席数から小選挙区での当選者数を引いた数の議員を名簿登載順に当選者とするのである。(日本の場合は小選挙区比例代表並立制といい、小選挙区選出議員(300)と、比例代表区選出議員(180)が別々に選出され、両選挙区への重複立候補が認められている)
このように、ドイツの場合は小選挙区選出議員数は比例区での政党得票数に応じて配分される枠内に位置づけられており、連立下でも政党間競争が可能になるようにされているのです。