>またお聞きしたいのですが、一部請求訴訟を行った後、残部請求は予備的な損害賠償請求に貸金返還請求権を乗っけて併合提起するというように、前訴の請求を拡張(併合提起)すれば二重起訴とならずに適法に提起できるのでしょうか?
訴えを変更する限りは別訴の提起ではないのですから二重起訴にはなりません。しかし、実際に訴えの変更が認められるかどうかは、要件を満たすかどうかがわからない以上、一概には言えません。
一応念のために説明しておくと、一部請求訴訟において残部を請求に追加するのは、請求の趣旨の拡張という訴えの変更ですし、予備的請求を追加するのは訴えの追加的併合(予備的併合)(*)という訴えの変更ですし、別の請求権に基づく別の債権を追加するのは、訴えの追加的併合(単純併合)という訴えの変更です。
(*)前回触れませんでしたが、もし仮に損害賠償「として」8000万円支払うという意思が相手にありこちらもそのつもりというような場合、そもそも贈与契約ではなくて(損害賠償に関する)和解契約になります。しかし、質問からはそのような内容を読み取れなかったので、贈与契約の履行をもって損害賠償に代えるというのはこちらの一方的な意思と考えて、贈与契約を履行せよということを一義的な請求とし、もし贈与契約が認められないのならその場合には損害賠償請求をするという意味で「予備的な」と書いています。ただし、この表現はかなりいい加減な表現です。予備的併合とは法律上の排他性が必要でこのような主観的排他性をもって予備的併合とは言いません。従って、私の言う「予備的な」とは、法律用語である「予備的併合」とはまったく別の便宜上の表現であるということを断っておきます。
ともかく、どのような請求権がありどのように請求するのがもっとも妥当かということをきちんと整理検討しないと正確なことは不明ですから、要は、「損得勘定で訴訟をやるかどうか決めるしかない。その際に他に請求できるものについてどういう扱いにするかもきちんと考慮しておく方がいい」ということだけ伝われば十分です。それ以上は、弁護士に相談すべき話です。
>二重提起すると、債務名義が二つも降りてしまって駄目だとおもうのですが、無効になるのでしょうか?取り消しになるのでしょうか?
後訴は原則としては不適法却下とし、ただできるなら前訴と弁論の併合をすることが望ましいということになります。
仮に二重起訴禁止に触れることを見過ごして判決が出て確定しまった場合、「後に」確定した判決(起訴の前後ではありません。判決確定の前後です)が優先です。この場合、両判決の内容が抵触するとき(*)には再審によって優先すべき「後に」確定した判決が取消になります(取り消しまで、あるいは再審がなければ後の確定判決が優先のままです)。
なお、二重起訴禁止に触れることを見過ごして両訴が係属し、片方について判決が確定した場合、残りがまだ係属中であれば確定した判決の既判力が残りの方の裁判に及ぶことになるだけです。
(*)同じ結論なら別に問題ありません。例えば全く同内容の訴訟を前訴確定後に提起した場合、通常は訴えの利益を欠く(時効中断目的などの場合は訴えの利益を欠くことにはならない)ので訴え却下になりますが、仮に気づかずにうっかり判決を出してしまったとしても後の判決が優先するだけです。もし、仮に両方の判決を別々に執行しようとしてもそれは現実にそういう事態が起こったときに始めて問題となるのですし、その場合には債務者が異議申立をすればいいだけの話です。二重起訴禁止の趣旨が、被告の応訴の煩、訴訟経済、判決の矛盾抵触の防止にあることを考えれば、現に訴訟を行って判決が出てしまった以上、今更、応訴の煩とか訴訟経済とかは問題にしても手遅れですし、矛盾抵触については、一方を優先させることを明らかにすれば十分です。ただ、矛盾抵触により裁判の信頼に悪影響を及ぼすことを考慮すれば、手続的正義の問題として、再審による後の確定判決の取り消しの機会を認めておくことは意味があります。
お礼
しびれる回答ありがとうございました。 読んでいて、感極まりました。 言い表す言葉はありません。 弁護士さんに相談するのと変わりませんね。。
補足
難しいので何回も正座して読み返してしまいました。 >ただできるなら前訴と弁論の併合をすることが望ましい これはどういう意味ですか?ちょっとピンとこなくてすみません。 __________________________________________ もし同じ債務名義が降りた場合は後が優先ってことなんですね。 うっかり二度同じ債務名義で執行してしまっても取り消されるまでは有効ってことなんでしょうか。取り消すには別の不当利得返還請求訴訟を債務者が起こすわけでしょうか。 しかし、訴えを併合または変更して少しでも違う債務名義を作ってしまえば二重とならず有効ということですか?