まず、2つの質問は関連がありますよ! (^-^) 大丈夫です。
他の方もおっしゃっているとおり、短期的にみて地上波のデジタル放送は
地方局に大きな負担を強いるものであるという見方が多いです。
この計画に笑い話があります。現在、総務省、NHKとデジタル放送推進協議会は、周波数変更に伴う費用の再算出で奔走中。というのも、実は、このデジタル化の計画には詰めの甘いところがあり、都市部から地方に拡大しながら順次デジタルに移行するにあたって、一部のアナログ局の周波数までも変更しなければならない(アナアナ問題)というとんでもないコストが「最近」判明したんです!(笑)
現在、この対策のために、周波数を変更するのか、あるいはいきなりデジタル放送をして、変わりにSTBを配布するのかということでもめています。。。(T-T)
いずれにせよ、このような大きな負担がありながらも、この計画を推進しているのには、ちゃんと理由があります。
1.有限な電波の有効利用(帯域の圧縮)
2.コンテンツの再利用
3.デジタルによる付加価値(高画質、ゴースト問題など)
4.その他いろいろ(機器メーカーが儲かるなど)
電波の周波数の件に関しては、他の方が触れられているので、ここではコンテンツの再利用について書きます。また、この事は、ご友人が仰った「ローカル局に利益をもたらす」という事に結びつきます。
現在の地方局のビジネスモデルは、自社のカバレッジエリアの世帯を広告主に売っているものです。つまり、自社の電波の届く範囲の世帯に広告を発信し、その対価をスポットなら代理店経由、提供枠なら広告代理店経由キー局経由でもらっていると考えてください。
ところが、デジタル放送を前提に作られたコンテンツにおいては、その二次利用が
大変容易であるゆえ、(パッケージのみならず、インターネットなど)市場が広がる可能性があるのです。国もこの点で問題になる著作権隣接権などのルール作りに取り組んでいることは、ご存知の通りです。
例えば、(あまりに大雑把な計算ですが!) 100万世帯の都市の放送局でエリアカバレッジが90%で、平均視聴率5%の番組を作っている局が、接する世帯数は 100万×90%×5% 4万5000世帯。
つまり、地方局はそのエリア内の世帯数が決まっているので、決まったパイを他の系列局と取り合っているんです。どんなに頑張って平均視聴率を上げても、その地域の世帯数は変りませんから、この限界は乗り越えられませんでした。(放送の24時間化でも、あまり多くの収益をあげられない。このご時世であっても、深夜帯の視聴率は散々たるもの)
でも、デジタルを前提に作った番組であれば、そのコンテンツをインターネットを使って全世界に向けて発信をできるため、最大で46億人の潜在顧客がある(ちょっとオーバーですが)といえます。
この事が、唯一地方局にある一筋の光明といえましょう。
現在の地方局の自社制作率は、ご存知のとおり相当低い率になっています。
80~90年代に顕著になった都市集中志向によって、この状況に一層拍車が掛かっていて、地方局のスタッフの士気は下がるばかりです。「このままでは、単なる中継局になってしまうのでは!?」という漠然とした不安を、みなさん持っておられるようです。
「それでもいいではないか。キー局が優れた番組を作って、地方局がその信号の再送出に関わって、全体で利益を上げられれば良いのではないか」、という声も聴かれそうです。確かに、そういうビジネスモデルに特化して、利益を出す事は可能かもしれません。いやむしろ、今までの構造はそのようなものだったのかもしれません。
ただ、私達が考えなければならないのは、キー局が作っている作品が、本当に質の高いものであるかという事です。
現在のブロードバンドの世界では、皆様ご存知のとおり、海外のコンテンツをダウンロードして、再生することは大変容易くなっています。まだ、回線幅の問題や、ベストエフォート(回線が混雑の状況によって変化する)であるということから、音声(IP電話)、あるいは動画の配信には向かないと思われていました。しかし、最近になってネットワークの補強がものすごい勢いで進められており、ストリーミングやミラーリング、CSを使った負荷分散など、さまざまな伝送に関わる技術の進歩の中で、ストレスなく動画を扱える状況が近づいています(韓国の事例をご覧下さい)
(ちょっとわき道にそれますが、余り知られていない事ですが、日本の光ファイバー敷設率は、シンガポールなどの特殊な例を除き、トップです。というのも、多くの商業施設には、すでに電力会社が多芯の光ファイバーケーブルを引きこんであって、数線を電力機器の調整・監視に使っている他は、全くがらがらという状況です。法制度が整えば、このインフラを使って、データのやりとりができます。国もインフラの整備の需要性は承知しており、ラストワンマイル、ラストワンメートルの問題を除けば、相当に恵まれた状況にあるといっていいと思います。地方においても、幹線の光化が急速に進んでおり、これにおいても他国よりアドバンテージがあると思います。)
このような社会の中では、私達がコンテンツの勝負をするコンペティターは、むしろ国内になく、海外にあると言えます。FOXが新たな映画を封切った瞬間、全世界のユーザーがFOXのサイトにアクセスして、各国語の字幕をつけたコンテンツを楽しむという時代が、すぐそこに来ています。
その中で、私達、日本の、キー局が作っている作品は、世界で競える質の高いものなのでしょうか?
残念ながら、そうではないようです。言語の問題もありましょうが、一部のアニメーションを除き、日本のコンテンツが海外で見られる事はありませんし、その評判もご存知のとおりです。ということは、このままキー局主体で、「今のままのコンテンツ」を作っているかぎりでは、この業界自体が消滅(そもそもセットインユース(局を問わず、全体でテレビを見ている世帯数)が減り、広告収入が減り、制作費が減り。。。。)
このような状況の中で、廉価な制作費で作品を作る事に長けた地方局に、もしかしたら分があるかも、と考えるのも自然です。実際は、多くの負債を抱える可能性があり(キー局がどのような対応を取るかによります。まだわかりません)、その中で事業を推進するのには、様々な困難が伴うかもしれません。しかし、大きな広告代理店の制作よりも、小さなクリエィティブ・エージェンシーがCMを受注した「ユニクロ」のように、大きな会社が良い仕事をするとは限らない世の中になっています。いかに優秀な人材を確保し、彼らに伸び伸びと良い作品を作ってもらうかにかかっています。
私の私見が多く混じっていますが、このような前提の中で地方局の生き残りの道には、いくつかパターンがあると思います。
1.キー局の放送中継局としての機能に特化。
保守管理の外部委託の推進、デジタル化に掛かる局舎の更改にあたっては、積極的な証券化の推進。媒体セールスなどを含め、人員の合理化。ステーションパワーの増大(ブランドイメージの向上)に向けた各種プロモーションの効率的な投下(現在の活動はムダが多いのでは?) 売りものである「時間」×「視聴率」の価値増大と支出の削減を狙う
2.独自コンテンツ制作会社として、世界で生きる
少ない制作費でコンテンツを制作できる事を強みとして、世界を市場として考えて制作力の増強に努める。ただし、この場合に気を付けなければならないのは、一部にエッジを立てるということ。競馬専門チャンネルがそれなりに成功していることをふまえ、独自の(ニッチで良い。市場の母数が大きいのだから)得意分野に資源を集中する。市場は日本1億2000万のみでなく、海外も含めた戦略に。その方が市場の分母が大きいのだから。「京都」「奈良」など、海外の人間に興味があり、既にブランドが確立されている地域で活動するならば、それを局の中心に据えても良い。「京都に関しては、全てがわかるチャンネル」という具合に。
3.地域に根ざした会社になる
日本のネットワークの一部として捉えると、小さな企業であるが、各地域では絶対的な知名度とブランドイメージを持った企業であることから、地域に特化した事業を幅広く推進する。地域の住民のベネフィットを最大化する事を事業の最終目的にし、豪雪地帯なら雪に関したサービス全般を扱い、南国ならマリンリゾートに関係する幅広いサービスを扱う。この場合の強みは、ブランドイメージであるという事を忘れずに、それを大切に「地域の人に」愛される会社(会社というよりも、組織かもしれない)を目指す
以上が、私の考えです。
広告代理店に勤めながら、勉強を続けています。
色々と弱い点のある意見であることは承知です。
みなさまのご意見、質問者の方のご意見も頂ければ幸いです。
お礼
「弱い点がある」なんて、とんでもないです。とても勉強になりました。これほどの説得力を持っておられるkitachanさんが勉強中とは、広告代理店のすごさが伝わってきます。私は、ローカル局志望で就職活動をしているのですが、皆様の回答を読ませて頂くと、もっと頑張らねば!と心に言い聞かせるばかりです。本当に有難うございました。