酒の席に同席して、同乗を引き、達人からポワンの酒をもらいましょう。ポワというと何となくポワーとして、酒みたいな感じじゃありませんか。鸚鵡のポワは怖いですが。彗星無性ではない、酔世夢生だったのでしょうか。酔生夢世でこの夢の人生を過ぎゆくのです。
それはともかく、良い酒は酔いが非常に良いそうです。英語の Joy をドイツ語やラテン語読みすると「ヨイ」ですが、酔いは喜びだというので、第九番でも、喜びの比喩は、酒の酔いで、楽園のもたらす美しき乙女です。これが本格の美酒の譬えだそうですが。美酒はサーキが注ぐもので、サーキとは、酒姫と音写しますが、ペルシア語で、酒席に侍る侍童のことで、ガニュメーデスみたいな感じで、酒は美少年だとも言います。
値段の高い低いは、必ずしも酒の味に相関しないと思いますが、その一献3万円の酒は、おそらく特別あつらえの、本物の「本醸造酒」なのでしょう。というのは、大量生産で一般に販売している酒は、どんなに高級なものでも、醸造用アルコールを使っていますし、長い時間乃至適度な時間の熟成を置いたものは、まずないからです。江戸時代のような方法で、念入りに仕込むと、確かに素晴らしい酒ができるという話があります。その江戸時代の、全部手作り、本醸造だった時代でも、銘酒というものが特にあったということですから、酒造りの秘法のようなものが伝わっていたのでしょう(醸造に使用する米だけでなく、特にどんな「水」を使うかです。水に含まれるイオンの組み合わせなどで、味がまったく変わるようです)。
一度、合成アルコールの日本酒を買って飲んでみてください。わたしは飲んだことがありませんが、大体安い酒のひどいのど越しとか、ピリピリと舌に当たる不快さは、あれは、生のアルコールの感覚なのです。合成アルコールを薄めて、砂糖や酢や塩や、色々な調味料で味付けしても、美味しい酒にはならないのです。
詳しくは知りませんが、蒸留酒は一般にアルコール度が高く、長い時間熟成させますが、熟成によって、アルコールの分子の周りに、何が実体か知りませんが、緩衝の働きをする分子膜ができ、アルコールのピリピリした感覚を和らげるのだそうです。これと同じことが日本酒でも言え、昔、特級・一級・二級などの酒があった時(いつ頃のはなしでしょうか)、それを同じメーカーのシリーズで飲み較べて、やはり、特級は味が違うと言っていた人がいました(わたしではありませんよ)。級が進むに連れ、アルコール度が少しづつ高くなるのですが、舌触りとか、喉の当たりなども、まろやかになるのだそうです。
池波正太郎が書いていたのだと思いますが、江戸時代の銘酒は、幾ら飲んでも悪酔いというのがなかったと言います。さらりとした飲み心地で、素晴らしい酔い心地だとか。当時の銘酒がどれぐらい美味いものだったのか、彼だったと思うのですが、何かの折に皇居で夕食に与り、その時、係りが、この食事は、今夜、おかみが召し上がられているのとまったく同じものです、と説明したそうです。つまり、天皇が食べている食事と同じものだというのです。それには、酒が一合ほど付いていて、これを味わって見ると、信じがたい美味さで、こんな味の日本酒があるのかと驚いて聞いてみると、その酒は、ある酒造会社が特別に作っているもので、皇居に献上する分しか造っていないとかいう話で、これが、江戸時代の本物の銘酒の味なのだ、と彼は納得したというような文章を読んだ記憶があるのですが。祝鯛に全部堪えていると、酒の肴がなくなって困るそうです。
やはり、本格的な本物の本醸造の日本酒は、普通は手に入らないと思いますし、しかし、値段の程度にもよりますが、五合で、二千円とか三千円ぐらいの酒だと、日本酒としても高級な方で、この値段を十倍にしても、そんなに味に変わりはないと思えます(飲んだことがないのに、想像で色々書いて、こうして同醸を得て龍陣となったのです)。
それよりも、貴方が、日本酒の味が好きかどうかという問題があります。
日本酒の飲みやすさは、アルコール度とか、辛さではないと思います。そんな単純なものだと、醸造用アルコールの濃度を高くすると味が良くなったり(実際、よくなりますが)、また味の素などを混ぜると美味しくなるという話になりますが、アルコールの生の刺激は、そんな程度では消えないです。
そのような日本酒があるかということは、わたしは実物は知りませんが、先の池波氏の話にあったように、特製の手作りの醸造酒で、昔からの秘法というか秘訣を使って造った銘酒は、昭和天皇が毎晩お飲み遊ばされていたような酒がそうであるように、おそらくあるのでしょう。沖縄の暖かさにことしの冬も生かされているかも知れない酔った勢いの文章ですが。偶廟にて酒を酌み、深夜、無限の地球と酒を飲みあう……復た楽しからずや)。
お礼
文学的な説明ありがとうございます。酒は美少年なんですね~。ロマンを感じつつ、少し危険な雰囲気ですね。特別あつらえの日本酒は、確かに存在するのですね、昭和天皇が毎日飲んでいたとはうらやましい限りです。 根本的な問題として、私自身が日本酒を好まない可能性、かなり大きいような気がしてきました。味の素をまぜて化学昆布酒もいいかもしれませんね。