平面格子を用いた分光器の構成は一般に
入射スリット→入射側コリメートミラー→平面回折格子→出射側コリメートミラー→出射スリット
となっています。この入射側と出射側のコリメートミラーに独立した2枚の凹面鏡を用いるのが「ツェルニターナ方式」、1枚の大きな凹面鏡の半分ずつを入射と出射で使い分けるのが「エバート方式」、1枚の凹面鏡の同じ部分を入射と出射で共用してしまうのが「リトロー方式」です。なので、この3方式は兄弟関係であり、基本的に性能には「それほど」大きな差はないと考えて良いと思います。ただ、わざわざスペースも余計にかかる「ツェルニターナ方式」を採用するのは、入射側と出射側で凹面鏡の曲率を変えたり、全体の配置も非対称にしたりして、少しでも収差などを押さえて性能を上げたい、というねらいがある訳で、そういった意味では回折格子が同等であれば「ツェルニターナ方式」の方が「多少なりとも高性能志向」と言えると思います。機械的には、ミラーが1枚で済む「エバート方式」の方が安定性で若干有利かも知れませんが、ほとんど関係ないレベルでしょう。
原子吸光光度計としての性能・安定性は、これら「分光器のマウント方式」よりはむしろ、
・回折格子の溝本数・ブレーズ波長・大きさ・機械切りかホログラフィックか
・分光器の焦点距離・明るさ(F値)・スリット幅
・ホトマルの種類と制御・信号処理方式
・ダブルビームかシングルビームか
・バックグランド補正の有無
・原子化部の方式・構造
・試料導入系の方式・構造
などによる影響の方が大きいように思います。
また、「エシェル方式」は溝本数が少ない特殊な平面回折格子を2枚(または1枚+プリズム)用い、高次回折光を用いることにより、広い波長範囲のスペクトルを一平面上で二次元的に一気に展開するための分光器で、「モノクロメータ(単色計)」ではなく「ポリクロメータ」と呼ばれます。「エシェル方式」は、小型の分光器で高分解能を得やすいこと、複数の分析線を一度に分析できることから、よく「ICP発光分析」には用いられます。原子吸光でこれを用いるのは、ホロカソードランプを複数同時装着して多元素同時分析を行うタイプの装置ですね。この装置の詳しいことは知らないのですが、「エシェル方式」は一般に回折効率などの点でシングルモノクロには及ばないので、感度的にはどうでしょうか。そのためかどうか分かりませんが、日立だったかな、昔の多元素同時分析用の原子吸光ではシングルモノクロを4台搭載していましたね。
お礼
とても分かりやすい説明を、ありがとうございました。 いろいろ、本を見ても、よく分からなくて、大変困っておりました。大変助かりました。本当にありがとうございました。