何かに対する執着心を捨てる強さを培うのは、最終的には自分の努力ではどうしようもないように思います。その力を持つには心の中に強い「軸」がないと出来ません。その軸をどのようにして形成するかなのですが、これが、自分一人の力では形成できず、生まれ育った環境や人間関係のなかで形成されるものだと、最近つくづく感じています。
人それぞれ、人生においての優先価値があると思いますが、生きていく上で重要な判断を下すということは、その価値基準に基づいてプライオリティの取捨選択をしていくことなのだと思います。例えば、アインシュタインは家族よりも自分の研究を優先し、人間関係に時間を費やすよりも孤独な時間を作り、空想したり、自問自答する時間を優先しました。つまり、「軸」という、何ものにも揺るがされない自分だけの価値を持てば、もちろんその時々で多かれ少なかれジレンマは生じるでしょうが、何かに惑わされること無く生きてゆけるのだと思います。
ではなぜ、彼は自分の研究を最優先させたのか、つまり、どのようにして彼の軸が形成されたかですが、これはつまるところ、研究というものが彼という人間を成り立たせているものだったからでしょう。そういったアイデンティティを形成する個人的価値は大概の場合、幼い頃に形成される場合が多いです。アインシュタインのケースは良く知らないので別の例で言えば、手塚治虫が医者ではなく漫画の道を選んだのも、幼い頃、学校で漫画を描くことでいじめられることは無くなったという体験があり、漫画というものが彼自身の存在を肯定するための第一手段になったところが大きいように見受けられます。彼が漫画を描くようになったきっかけは父親が映画や漫画が好きで家にそういうものがたくさん置いてあったのだそうです。
ですので、逆の言い方をすると、そういう体験から形成された軸がない場合、目先の欲望にとらわれて人生の優先順位の価値判断がきちんとできなくなります。言い換えると、この軸の欠如が、「今現在大切だと思っているもの」に捕らわれて、長い目で見たときの自分の人生において大切なものとの比較と選択が出来ない大きな理由なのです。自分の価値基準が明瞭に認識できている場合は、その時々に生じる感情の波に飲まれることなく、自分に必要なものを選択できるのです。つまり、必要かどうかの是非を見極め、そうでない場合、捨てることが出来るのです。
ここまで要約いたしますと、軸を作るに至る強い動機を得るには何か強いきっかけが必要です。きっかけというものは、外からやってくるものなので、自分ではコントロールできません。加えて、強い軸は幼い頃に既に形成されているケースが多いです。軸があれば判断が鈍ることなく、捨てる、という選択が容易になります。
ここで、もし、ご質問者さんに独自の価値基準、軸が無い場合ですが、それでは流されてしまうだけですので、ひとつ、自分でそれを見つける方法を紹介します。これは、「7つの習慣」という本に載っていた方法ですが、自分の葬式が行われている状況を出来るだけ詳しくイメージする、という方法です。死んだときに自分は何を成し遂げているのか、何を遣り残しているのか、どのくらいの数の家族や仲間がいて、彼らからはどのように思われているのか、などを、自分が希望するとおりにこと細かくイメージします。ここで自分自身に嘘をついてしまうと危険です。
これを行うことによって、自分は何がしたいのか、自分の人生で何が大切なのか、がより明確になり、それに基づいて人生設計が出来るというわけです。このイメージトレーニングの後、今直面している選択に戻ってみれば、答えが出しやすくなっているはずです。
それで、最後に、直接ご質問に答えさせていただきますと、もっと大切なものがあるので、好きなものは後回しにする(場合によっては諦める)ことが出来ます。なぜそれが出来るのかは、自分の中にどうしようもない価値基準があり、自分にとって何が一番大切なのかを知っているからです。思いが蘇った時は、以前にした価値判断のプロセスを繰り返すだけです。もちろん、めちゃくちゃ悲しくなる時もありますが、そのときの特効薬は「寝る」、です。結構効きます。
参考にしていただければと思います。