>それとも安いから働かないという人がそんなにたくさんいるのですか?
「パンデミックの歴史」を調べていたら、面白いことを知ったのですよ。
14世紀のペストの流行は、教科書レベルではルネサンスを引き起こした原因にもなったといわれています。もちょっと突っ込むともっと細かいことがいろいろあるのですが、大きな動きのひとつとして「西ヨーロッパでは農奴の解放が起きた」というのがありました。
中世ヨーロッパの農民は「農奴」と呼ばれるほどひどい待遇に置かれていたんですね。ところがペストが流行して、とんでもない数の死者が出てしまった。ペストは衛生環境が悪いところで蔓延しますから、最低レベル以下の生活をしていた農民たちはバタバタ死んで、衛生環境がいい貴族などは生き残りました。そこで起きたのが「深刻な労働者不足」です。農民がいないからといって貴族は自ら働けません。
しょうがないから貴族は農民の待遇改善をして「高給優遇。働きやすい職場です」ということで農民たちを集めたのです。そうして、西ヨーロッパでは農奴からの解放が起きました。
実はポーランドってペストの流行が起きなかった地域なんですよ。当時のポーランドは蒸留酒でお皿を拭くという習慣があったそうです。それでペスト菌が殺菌されたからといわれてますね。だからペストによる犠牲者が極めて少なかったのですが、その代わりに農奴の解放が起きませんでした。これって歴史の皮肉ですよね。
で、農民の賃金(報酬)が上がったわけですから、次に起きるのは当然のことながらインフレです。そしてインフレだからまた農民の賃金が上がるというインフレスパイラルが発生し、これがルネサンスにつながっていくんですね。
これと同じことが、ポストコロナでも起きています。全世界規模のインフレと労働者不足です。去年か一昨年か、アメリカの運送会社の社長さんが「年収1千万円にしても応募が来ない」といってましたけど、そういう現象が今、全世界規模で起きています。
不思議なのが、コロナっていうほど「死んでない」はずなんですよ。ペストはみんな死んじゃったから絶対数が不足しているはずです。けど、コロナは死んではいないから労働者の絶対数が不足しているわけではないはずです。
けれど日本でも、例えば飲食業なんかはコロナのときにどんどん人を切って、今はまた雇えるようになったからと求人をかけているのですが、人が戻ってこないのですよね。戻らない人の理由の多くが「また何かあったときに簡単に切られるような業界はもう嫌だ」とか「思えば安い賃金でこき使われていたからもう飲食業界に懲りた」とかだと思います。
だけど、労働者そのものは「どこかにいるはず」なんですよね。コロナで飲食店や小売店をクビになった人たちは、今どこで何をしているのか。私もそれは知りません。
また「ミスマッチの悲劇」も起きていると思います。飲食業界では「安い賃金でこき使われるのはもう嫌だ」と人が来ないわけですから、改善策は時給を上げるしかありません。
でもラーメン屋さんで時給をどこまで上げられるかというと、まあ頑張って時給1200円くらいだと思います。そもそもコロナ前は1000円程度ですから、20%もアップしている。けれど今の東京都の最低時給が1163円ですから、時給1200円はほぼ最低賃金レベル。その割に一日じゅう立ちっぱなしで肉体労働です。それじゃあ「割に合わない」と応募する人はいないですよね。
では時給をもっと上げられるかというと、現状で原材料費の高騰などで利益はカツカツです。ラーメン屋さんは水道も出しっぱなしでコンロもかけっぱなしじゃないですか。水道代とガス代が半端ないんですよ。ズンドウもコンロにかけっぱなしだから、業務用の大型換気扇も一日中回しっぱなしです。その一方でラーメンは「千円の壁」があるのでそうお気軽に値上げができない。
なので「お客さんは来ているけれど、従業員が確保できないうえに採算も合わない」という理由で廃業するお店が増えています。コロナ前は「お客さんが来なくて廃業する」だったのですけれど、ポストコロナは「お客さんは来てるけど廃業する」が起きています。
この流れは、少なくとも来年も続くのではないかなと思います。
お礼
ご回答ありがとうございます。ペストとルネッサンスの話は実に面白い。やはり歴史は政治じゃなくて経済との関連で見るべきです。学校教育で教える歴史は政治ばかりだからつまらない。 コロナでは「どこかにいるはず」の労働者はどこへ行ったのでしょうね。アメリカではコロナで数年早く早期退職してしまいましたが、数年経ったのでその影響はなくなりつつあります。ただその間移民が入ってこられなかったのが大きいみたいです。あと高金利・住宅インフレのせいで家賃が月12万⇒30万みたいな話なので、以前の給料では絶対に生活できません。でも、だったらどうするんでしょうね。傭兵志願するとか危険だけど高い職種に流れるとかでしょうか。 日本はコロナと円安のせいで技能実習生が減ったのかもしれません。日本って共働き化や60歳以上の就労、2000年以降は医療・介護分野の労働需要のせいでもともと女性の就労率も上がっていたので60歳以上や女性の労働力はコロナ前から枯渇しつつあったのではないかとも思います。 わからないのは若年男性です。ドライバー不足、工員不足などあちこちで若手(男性)が足りないと言われていますが、じゃあどこで何をしているのか。みんなホワイトカラー化したとは思えませんし。ただ知り合いと話していて思うのは、最近の若い子たちは20世紀のように普通に大学出て普通に企業に就職する子ばかりじゃないって事です。地域おこしとかNPOとか芸能とか変わったことをしている人が多く、以前は10人中9人サラリーマンになっていたのが5人になったイメージでしょうか。少子化もあるけれど、時代の違いかなぁって思います。 いやぁ頂いたご洞察は面白い。実に面白い。