自分が知る限り、古事記ではいつから人がいるのか、ということは明確に書かれていません。
ただ、冒頭部分で
天と地とがはじめて姿を見せた、その時に、高天(たかま)の原に成り出た神の御名(みな)は、アメノミナカヌシ。つぎにタカミムスヒ、つぎにカムムスヒが成り出た。この三柱のお方はみな独り神で、いつのまにやら、その身を隠してしまわれた。
できたばかりの下の国は、土とは言えぬほどにやわらかくて、椀(まり)に浮かんだ鹿猪の脂身のさまで、海月なしてゆらゆらと漂っていたが、その時に、泥の中から葦牙(あしかび)のごとくに萌えあがってきたものがあって、そのあらわれ出たお方を、ウマシアシカビヒコヂと言う。
という部分があります。
千葉大学名誉教授の三浦佑之氏は、このウマシアシカビヒコヂが人間の祖先を表しているのではないか、と指摘しています。
その上で、「ウマシアシカビヒコヂ」とは、「立派な葦の芽の男神」という意味なのですが、つまり、古代日本人は人間の祖先を葦の芽、植物だと考えていた、とも述べています。
それが正しいとすると、天地創造で原初の神が生まれてすぐに、人間の原型が誕生した、と捉えることができるでしょう。
その後、ウヒヂニ神とスヒチニ神の二神、次にツノグヒ神とイクグヒ神の二神、次にオホトノヂ神とオホトノベ神の二神、次にオモダル神とアヤカシコネ神の二神、と次々に二神が生まれます。
独り神から二神の時代となって、最後にイザナキ神とイザナミ神が生まれます。
このことから、イザナミ・イザナギの時代には、すでに人はいた、と考えることができます。
これは次の文からも推測できます。
イザナミが亡くなり、イザナギが黄泉の国を訪問したシーンです。
イザナミ神は、言いました。
「いとしい私の夫よ。
あなたがこんなことをするのなら、
あなたの国の人を一日千人、殺しましょう。」
イザナキ神が応えました。
「いとしい妻よ。
あなたが千人殺すなら、
私は、一日に千五百の産屋を建てよう。」
イザナミは千人殺す、と言っている時点で、すでに人がいることがうかがえます。
プロメテウスの神話に限らず、西洋では人は神によって作られた、とするものが多いですね。
キリスト教の創世記でも「主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は生きた者となった」とされます。
それに対し、日本では自然発生的に人が生まれている点が注目されるところです。
また、上記のようにイザナミ・イザナギの時代にすでに人が存在しているとしたら、アマテラス・ツクヨミ・スサノオなどの時代より人の歴史のほうが古い、ということになります。
お礼
ありがとうございます! とても楽しく拝読しました!参考になりました!