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時効割れとは?メカニズムと破壊の性質について
- 時効割れとは金属や合金などの材料が長期間にわたり保持された応力によって破断する現象です。
- 時効割れは延性破壊と脆性破壊の両方の性質を持っており、応力集中部分では脆性破壊が起こり、それ以外の部分では延性破壊が起こることがあります。
- 時効割れの発生メカニズムは、長期間にわたる応力の蓄積により材料内部の微細な組織が変化し、結晶欠陥や溶質原子のクラスターが形成されます。その結果、材料の強度が低下し、割れが発生するのです。
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Q1.残留応力は相対的な力のアンバランスと考えているので、表面に引張 応力があれば、それに相当する圧縮応力が内部に背中合わせに存在しているはず。 A1.推察の通りです。高い残留応力の発生している、絞り成形品の残留応力発生部位を板厚方向に測定すると、表面は+の引張りの残留応力。内側は-の圧縮の残留応力が存在します。プレス成形品は、全て、+と-の残留応力のバランスで、成形された形状が保持されているわけですから。また、残留応力を計るといっても、何を計っているかになります。X線で計れば、相単位でミクロ的、歪みゲージや切り欠き法であれば、マクロ的になります。 Q2、加工時点で割れが発生しなければ、時間経過によって進展する事になんか疑問を感じてしまいます。 A2、(1)自然時効と人工時効 時効硬化で時間軸の変化で金属が変わることを説明してみましょう。 ゲージを製作する場合、焼き入れした鋼材は、時間の経過(数ヶ月から数年)とともに残留オーステナイトがマルテン変態して硬度が上昇と寸法の変化があります。これを短時間で安定させるために、例えば、サブゼロ処理などで極低温まで下げれば、短時間に時効が促進され硬度も上がり、寸法の狂いもなくなる。といった処理を行います。 特に合金には、このような性質が多く見られます。その良い例が、ジュラルミンですが、熱処理で硬化させ、アルミ合金とは思えないような強靱な性質を得ることができることはご存じでしょう。これを人工時効といいます。 (2)時効を起こすエネルギーは2つ 時効は、金属材料の内部組織が不安定な状態にあって安定な状態に戻ろうとしている訳で、戻るには、金属結晶中で原子が動くことになります。それには熱エネルギー等が必要であり、常温でもこのエネルギーが、十分であれば常温時効がおこります。加熱することで金属中の原子の移動が可能になる金属の場合は人工時効つまり時効熱処理(シュラルミン)を行いこの変化を早めることになる訳です。これは、熱エネルギによる時効です。 時効割れの原因は、熱エネルギーではなく歪みエネルギーによるものですので、混同しないでください。 何故遅れ破壊があるかですが、下記に・・・・。 Q3温度(加工温度)の影響 ステンレス鋼は特有の加工誘起マルテンサイト変態というのがあり、Md点(鋼の化学成分値で決定する温度)以下の温度域ではNiにより安定化しているオーステナイトが加工歪みエネルギーにより加工誘起マルテンサイト(α')に変態する。 A3 その通りです。 オーステナイト系ステンレス鋼だけですが、温度依存性があります。NIの量により安定オーステナイト鋼と準安定オーステナイト鋼に分類できます。 SUS304鋼では、NIが12%以上になると、安定オーステナイト鋼になり加工誘起マルテンサイト変態(α‘変態と略す)は、どんなに冷間加工しても発生しません。また時効割れも発生しません。そのかわり、α‘変態しないため変態誘起塑性(TRPM)が得られなくなり、大きな成形、深絞りなどの成形も出来なくなります。 さて、準安定オーステナイト系ステンレス鋼に話しを戻します。成形時の温度が、たいへん影響します。Md点はNiの量により違いますが、60~100℃のはずです。逆にMs点は常温付近から-20℃くらいで発生が始まります。寒い冬に深絞り成形を行うと、α‘変態がおきやすく、時効割れもこれに伴って発生しやすくなります。 逆に60~100℃ぐらいにしてMd点付近まであげるとα‘変態が起きなくなり、また成形性のアップにより深絞りはやりやすくなります。この方法を用いたのが、温間成形(加工)といいます。ステンレスではよくやる方法です。 Q4:加工誘起マルテンサイト変態は、加工と共に直ぐに発生するものなのでしょうか?それとも加工から発生までに時間がかかるものなのでしょうか? A4:熱処理のマルテンサイト変態とは異なります。熱処理ではなく冷間加工による大きな変形(歪エネルギー)によって発生する変態が、α‘変態です。加工と同時に発生します。 それと、α’変態は、時間とともに変態は進みません。成形時のまま、何十年たっても変態量はかわらないのです。変態量は、フェライト値という形で、フェライトスコープという測定器で簡単に測定できますので、変化はわかります。 つまりα’変態は、SSC因子ではあるが、単独の因子だけでは発生につながりません。 A5 SSCの原因 前にも書きましたが、100%の答えはありません。 時効割れの因子としては、材料の化学成分、深絞り加工条件(ブランク形状、加工速度、金型材質、潤滑油、加工温度等)に影響され、促進条件として、引張残留応力、水素(Cl-イオンの存在)、温度、加工誘起マルテンサイト、時効硬化等があり、これが複雑に影響するので、決定的な原因が言えない。 破壊までの時間(1)絞り直後から100H以下の場合と(2)数ヶ月から数年後の破壊では、その原因も異なると考えられる。 (1)短時間に発生するSSCは、高い残留応力による組織的な変化。 特に、絞り成形後、寒い冬の日に屋外へ放置した場合などは、明かに時効が促進される条件がある。 (2)長時間で発生するSSCは、温度、ガス、応力の3因子による問題が考えられます。 ?応力とガス α相とγ相の残留応力の違い、これに水素つまりCL―イオンによる脆化の促進 ?温度とガス SSCは60~100℃で促進される。これは、明かにCL-イオンによる酸化性雰囲気の影響が考えられる ?応力とガスと温度 この3因子が時効割れを促進する要因であることは解っています。
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1. 時効割れとは 時効割れ、時期割れ、置き割れとも言われ、経年劣化現象で、遅れ破壊のことを指します。 広義の意味では、応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)と時期割れ(SSC:Season Stress Cracking)と考えますが、狭義的な意味で、時効割れと置き割れというとSSCだけを意味することがあるので注意してください。 (1)研究分野では、すでに応力腐食割れの一部を時期割れと考えます。 では、主な研究区別ですが、SCCは主に溶接の分野。SSCは塑性加工の分野で研究されています。 (2)形状ですが、マクロ的には、製品を見てどこの部位ということで解りますが、ミクロ的に破壊断面の組織を金属顕微鏡等で撮影されたものでは、SCCは結晶粒界から発生し、粒界に沿って割れは進行しジグザグですが、SSCは結晶粒内を貫通して直線的に破断しています。 (3)発生する金属材料は、以下の合金で起こることが知られています。 ?オーステナイトステンレス鋼 ?高張力鋼 ?黄銅等 ここで話しを限定して、?のオーステナイト系ステンレス鋼の深絞りの時効割れに限定した回答がすでにありますので参照してください。 2. オーステナイト系ステンレス鋼のSSC SSCは、深絞り加工など大きな残留応力が残るプレス加工品に発生します。 詳細は、9107 ステンレス鋼 7889 SUSの深絞り に昔の回答がありますので見てください 3.延性破壊(破断)か脆性破断か 結晶状破断=脆性破壊は、塑性変形することなく破壊する場合を脆性破壊といいます。その原因としては、材料の性質の他、破断の条件により以下の状況下では、延性破断する軟鋼でも脆性破断が発生します。その条件下とは、?低温、?切り欠き、?残留応力等が、材料中にあって破壊した場合には、同様に脆性破壊となる。従って、時効割れは、脆性破壊の典型的な例と言えます。 4.時効割れのメカニズム 正確には解明されていません。諸説あります。 残留応力、加工誘起マルテンサイト(残留オーステナイトとあるが違う) 使用条件(雰囲気つまり温度、湿度)がそろったときに発生する。 発生メカニズムの持論ありますが、どこからも認められているわけでもないのでやめておきます。 そのかわりSSCの促進条件をあげておきます。 (1)高い残留応力 (抗張力付近) どうさげるか? (2)温度 (90~100℃付近で最大) (3)湿度 (水つまり水素アタック) どう遮断するか? これを減少、遮断すれば、対策となります
お礼
詳しいご説明に感謝致します。 時期割れSSCの割れは粒内を直線的に進行するんですね、小生は粒界に沿って 発生するものと思っていました。 (脆性破壊=粒界伝播破壊と思っていました。) 大変勉強になりました。 色々調べてみると疑問点が次から次へと出てきますが、やっぱり引掛かる のが時効割れの原因です。 ?塑性加工による高い残留応力の発生 表面が引張の残留応力になっているなら、なんとなく表面が引き裂かれて 割れが発生するのかな?と漠然とイメージは付くのですが。。。 残留応力は相対的な力のアンバランスと考えているので、表面に引張 応力があれば、それに相当する圧縮応力が内部に背中合わせに存在して いるはず、加工時点で割れが発生しなければ、時間経過によって 進展する事になんか疑問を感じてしまいます。 ?温度の影響 小生なりに調べてみましたが、ステンレス鋼は特有の加工誘起マルテン サイト変態というのがあり、Md点(鋼の化学成分値で決定する温度)以下の 温度域ではNiにより安定化しているオーステナイトが 加工歪みエネルギーにより加工誘起マルテンサイト(α')に変態する。 それに伴い強度がアップするが、逆に靭性が低下して脆くなり時効割れ しやすくなる??? ただ、加工歪み率の高い表面部の方がα'が多く、結晶格子が膨らんで 表面部の体積膨張→内部はそのままの体積により表面に圧縮、内部に 引張応力が発生して、逆に表面割れしずらくなるのでは。。。 と小生的には感じてしまい、何で時間が経つと割れるのかに繋がりません。 上記の小生の話は全く誤認の解釈である可能性は多いにあると思っています が、なにかすっきりしないものですね。 もしご存知であれば、教えて頂きたいのですが、 ・加工誘起マルテンサイト変態は、加工と共に直ぐに発生するものなので しょうか?それとも加工から発生までに時間がかかるものなのでしょうか? 貴殿のご回答にて、時効割れについて非常に興味が沸いてきました。 長々となってしまいましたが、ご回答頂いた事に感謝致します。
SUSでは残留オーステナイトがマルテンサイト変態することにより,残留応力 が内力として発生し,置き割れが生じることがあります。下記参照下さい。 キーワード:オーステナイト,マルテンサイト,析出硬化処理,水素脆性
お礼
ご回答ありがとうございます。
時効割れとは、SUS 301や304等を深絞り加工して常温にしばらく放置する と、激しいときには音を伴なって亀裂が発生するという遅れ破壊原象であ る。原因として水素、残留応力、マルテンサイト変態等があげられ、これを 回避するには、オーステナイト相の安定したステンレス鋼の使用や応力除去 処理が有効であるとされている。脆性破壊とみなされる場合が多いと思います。
お礼
早速のご回答ありがとうございます。 脆性破壊の分類に属するみたいですね。 もしよろしければ以下についても少し教えてください。 割れの原因 マルテンサイト変態、残留応力についてもう少し詳しく説明頂くと ありがたいのですが。。。
お礼
大変詳しいご回答に感謝致します。 非常に参考になり、かつ勉強になりました。ステンレス鋼はあまり扱った 事がないので小生の知見が少ない分、非常に興味のある分野でありました。 これからも小生なりに勉強していこうと思いますので、また時々質問 に投稿すると思いますが、その際は宜しくお願い致します。