これは一概にそうだともそうでないとも決めつけられない微妙な問題です。
よく世間には、この30年間くらいの女性の就業率の上昇と、晩婚化(初婚年齢の上昇)のグラフを重ね合わせて、「働く女性が増えたから結婚が遅くなった」と主張する人がいますが、これは実は乱暴な議論です。というのは少なくともこの30年くらい25歳から29歳までの独身女性の就業率は一貫して高い水準にありさほど増加していないのです。また20歳から24歳までの独身女性の就業率は(大学進学率の上昇を反映したためと考えられますが)むしろ低下しています。
考えてみればこれは当然のことで、昭和の終わりや平成の初めに「学校を卒業したら就職せずに花嫁修業をした」などという女性はほとんどいませんでした。現在と同様に学校を卒業したら就職していたのです。女性の就業率が上昇しているのは、それ以外の年齢層、および既婚の女性の就業率が上昇したからで、その多くは結婚後の「夫婦共働き」の増加です。この点から言えば「女性が社会で働くようになったから晩婚化した」というのは正しくないと考えられます。
一方就職した若者にとって20代後半は男女ともキャリア形成の基礎となる重要な時期です。仕事を優先すれば、結婚しよう・結婚したいという気持ちが薄れる可能性は男女を問わず否定できません。とくに女性の場合、結婚すれば仕事に加えて家事や出産・子育てなど仕事との両立が困難な多くの問題が山積していると予想されますので、「早く結婚したい」とは思えないのも無理はありません。回答者の子どもの世代にあたる現在の若い女性にとっては「結婚はコスパが悪い」のです。この点から言えば「女性が働くようになったから」ではなく、「女性が働き続けたいと思うようになったから晩婚化した」というのであれば、女性の高学歴化(初めて就職する年齢の上昇)とあわせて主要な要因の一つに挙げることは間違いではないと思います。
この両者は似て非なるものです。なぜならば後者であれば「結婚しても働き続けることが容易な社会の仕組み…特に出産・子育てに関して」ができれば、晩婚化の進行を抑えられる可能性があるからです。
とはいうものの、現実は複雑です。日本国憲法にあるように「婚姻は両性の合意にのみに基づいて成立」するのだから、女性側の理由だけでは晩婚化は説明できないからです。内閣府の調査で「若い世代で未婚・晩婚が増えている理由」について尋ねたところ、未婚男性は「経済的に余裕がないから」との回答が5割以上で最多でした。
男性は自分の給料だけでは結婚して家族を養う自信がないということですが、それでは今より早婚で既婚者の割合が高かった戦後すぐや、昭和30年代の男性の収入が今より多かったかと言えば、もちろんそんなことはありませんでした。衣食住すべてについて、平均的なレベルで言えば現在の方がはるかに上です。
にもかかわらず、昔はなぜ結婚していたのか(結婚できたのか)、回答者は昔の方が「結婚のコスパが良かった」からではないかと考えていますが、「時代が違う」の一言で片づけてはいけない未婚・晩婚問題の重要なカギが隠されているように思います。
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