まず、「半円に内接する」とはどういうことか。「円に内接する三角形」という時には、「三角形の頂点全てが円周上にある」という意味になりますけれども、この問題の場合にはそういう意味である筈がありません。どうやら、単に「半円が楕円を含む」というだけの意味だと思って良さそうですね。というのは、そのような楕円のうちで最大の楕円を求めているんですから、楕円は幾つかの点で半円に内側から接することに(嫌でも)なるからです。
問題では、先に半円が決まっていて、その中に楕円を入れる、という話ですけれども、最終的に円と楕円の面積の比だけを考えれば良い。なので、「ある楕円を決めて、これを含む最も小さな半径を持つ半円を作る」という風に考えても同じ事だし、この方が分かり易くなるでしょう。というわけで、以下、この手で行きます。
さて「半円」というのは、円と、そのひとつの直径で出来ている。ということは、半円が楕円を含むのなら、明らかに、その円の中心は楕円の外または周上にあります。また、円がこの条件を満たすとき、半円の直線部分とは、円の中心を通り楕円の中を通らない(周上なら構わない)勝手な直線であれば良い。たとえば円の中心を通る楕円の接線でも良い。なので以下、直線部分のことは忘れて構いません。
Lemma1「楕円を含み楕円と2点で接するような任意の円は、楕円の短軸の延長上に中心がある」
証明:これは簡単でしょう。
Lemma2「円の中心が楕円の周上にある方が、外にあるよりも、楕円を含む円が小さくできる」
証明:楕円の外(周上を除く)にある点Cを中心として、楕円を丁度含む円Cを描く。円Cの半径をrとする。すると、円Cは楕円と1点または2点で接している。
(1) 1点Xで接している場合(Fig1)、Cを通り楕円と交差しない直線Lが存在する。Lと平行な楕円の接線(2本あるうちLに近い方)と円Cとの交点をP, Qとする。すると、楕円は弦PQと弧PQに囲まれた領域の中にある。線分PQにCからおろした垂線の足をMとする。線分CMの任意の内分点Dを中心として半径rの円を描く。すると、Dは楕円の外にある。円Dは弦PQと弧PQに囲まれた領域を含み、しかも至る所接していない。従って、円Dは楕円を含み、しかも接点を持たない。なので、Dを中心とする半径r未満の円であって楕円を含み、かつ楕円に接するような円が存在する。
(2) 2点X,Yで接している場合(Fig2)、Lemma1によってCは楕円の短軸上にある。Cを通り短軸と垂直な直線と、円Cとの交点をP,Qとする。短軸と楕円の交点(2個あるうちCに近い方)をMとする。以下同様。
これで、円の中心のありかとして楕円の周上だけを考えれば良くなります。しかしLemma2を利用しても、「楕円に接する円の半径を最小にする」という極値問題として定式化して解こうとすると、とても大変。というのは、楕円上の点を中心とする、楕円と接点を持つような円は最大3個存在する(内側から接するものを含む)ために、3次方程式の問題になってしまう。
ですから、もう少し幾何学的に攻める方が良さそうです。
Lemma3 「円の中心Cを楕円の短軸と楕円との交点上に置くとき、楕円の周上の他の点に置く場合よりも、楕円を含む円が小さくできる」
証明:Cを中心として丁度楕円を含む円を描く。すると、楕円が円Cと1点で接する場合と、2点で接する場合がある。
(1) 1点で接する場合(Fig3)。対称性から、接点Xは楕円の短軸上にある。なので、XCの長さが円Cの半径rである。CとX以外の楕円の周上の点Dについて、楕円の中心に対して点対称の位置にある点をD'とする。Dにおける楕円の接線LにD'からおろした垂線の足をMとする。すると、楕円の性質からMD'は短軸XCよりも長い。そして、DD'はMD'よりも長い。従って、DD'は円Cの半径rよりも長い。このため、Dを中心としてD'を含む円を描くと、その半径はrよりも大きい。だから点Dを中心として半径rよりも小さい円を描いて楕円を含むようにはできない。
(2) 2点で接する場合(Fig4)。楕円が円に2点X, Yで接していて、円の中心Cが楕円の周上にある。点Cは楕円の短軸にあり、距離CX=CY=円の半径rである。C,X,Yについて、、楕円の中心に対して点対称の位置にある点をそれぞれC', X', Y'とする。
(2-1)点Xを中心として点Cを通る円Xと、点Yを中心として点Cを通る円Yを描くと、これらの円の半径はrである。この両方の円(円周を含む)に含まれる領域(領域Aとする)にある任意の点Pは、距離PXも距離PYもrより小さいか等しい。そうでない点Qは距離QXか距離QYの少なくとも一方がrよりも大きいのfr、Qを中心として楕円を含む円Qを描くと、その半径はQXおよびQY以上でなくてはならないから、円Qの半径はrよりも大きい。
さて、X'Xはrよりも長い。従って、弧XC'Yおよび弧X'CY'上にある点は全て領域Aに含まれないので、これらの点を中心として半径rよりも小さい円を描いて楕円を含むようにはできない。
(2-2)楕円の周上の点であって、弧XC'Yにも弧X'CY'にも属さない点Dについて、楕円の中心に対して点対称の位置にある点をD'とする。Dにおける楕円の接線LにD'からおろした垂線の足をMとする。すると、MD'はX'Xよりも長い。そして、DD'はMD'よりも長い。さらに、X'Xはrよりも長い。従って、DD'は円Cの半径rよりも長い。だから点Dを中心として半径rよりも小さい円を描いて楕円を含むようにはできない。
Lemma3を使えば、円の面積に対して楕円の面積が最大になるような楕円を求める問題は、ごく簡単な極値問題です。