>笑い男の話
というのは、コマンチ団の団長が話してくれた“宣教師の一人息子が中国の山賊に誘拐されて、盗賊団の団長になる”、というエピソードのことですね。
サリンジャーの研究書を何冊か見てみましたが、はっきりと出所明示がしてあるものはもとより、何かの影響を受けた、という書き方がしてあるものもありませんでした。
ただ、このエピソードの原型、植民地へ行ったヨーロッパ(アメリカ)人の子どもが両親とはぐれ、一人現地で育っていく、というものは、19世紀ごろには、多くのバリエーションをもった民間伝承としてあったようです。
そうしたものを元に書かれた有名な作品が、キプリングの『ジャングル・ブック』や『少年キム』です。
一方、サリンジャーの短編というのは、周到な計算によって練りに練られたものなので、すでにできあがっていたストーリーを作品の中に借り入れる、ということをしたとは考えにくいのです。
おそらくそうした“誰もが知っているエピソード”を一番根っこのところで借りながら、サリンジャーが創作したものと考えてよいと思います。
質問者さんが“どこかで読んだことがある”と思われたように、団長の話も子どもたちにとっては“どこかで聞いたことがある”話としてスタートし、予想もつかない展開を見せていったのではないでしょうか。
お礼
回答ありがとうございます。 「笑い男」の仮面の下の醜い顔など、子供のころ読んだ記憶があるのですが……。 意識下に刷り込まれた記憶の勘違いだったようです。 『ジャングル・ブック』や『少年キム』は読んだことがありません。 「ナインストーリーズ」は最も感銘を受けた短編集の1つです。 >周到な計算によって練りに練られたものなので 同感です。それぞれの作品は完成度が高いですね。 笑い男のエピソードもサリンジャーの創作だとすると、ますます尊敬します。