まず確認しておかなければならないのは、新規に国債を発行することと、市場への通貨供給量を増やすこととは必ずしもイコールではないということです。国債発行額がいかに膨大であろうと、すでに市中に出回っている通貨で新規に発行された国債を消化することができれば、国債が発行された分だけ現金が市場から回収されることになるわけですから、インフレにはなりません。
国債が新規発行されるたびに市場への通貨供給量が増えていくとしたら、日本の通貨供給量は800兆円も増えることになり、大変な事態になります。パン屋さんで、朝の開店時に売り出されたパンが昼には2倍の価格になるといわれるジンバブエのようなことになりかねません。経済崩壊ですね。
実は、日本でもかつてそのような経済崩壊を経験したことがあります。戦時中、軍部の圧力に屈した大蔵省(財務省の前身)が、国債を新規に大量発行し、それを日銀にいきなり引き受けさせるという手段で戦費を調達しようとしました。しかし、新規発行債の日銀引き受けは、日銀がその引受額の分だけ新規に紙幣を増刷して代金を払うわけですから、結局、大インフレを招き、戦争に負ける前に経済が崩壊してしまいました。
この教訓から、戦後の財政法では特例公債(いわゆる赤字国債)の発行や新規発行債の日銀引き受けは禁止されました。いずれも、the070さんが心配しているような事態、つまり国債発行が通貨供給量の増加に直結するような事態を防ぐためのものです。
現在では、赤字国債は毎年発行されるのが当たり前のようになっていますが、本来は禁止です。あまり知られていませんが、政府は、財政法で原則禁止されている赤字国債の発行を可能にするために、「今年度に限って○○円を限度として赤字国債を発行して良い」という法律を毎年国会に提出して成立させています。仮にこの法律が成立しなければ、赤字国債は発行できず、借金返済のために借金をする現在の自転車操業は破綻してしまうでしょう。
最後に。
国債とは国の借金ですから、いずれは政府が利息を付けて債権者に返済しなければなりません。800兆円も国債を発行すると、金利1%として計算しても利息だけで8兆円が毎年、増えていきます。
この8兆円分だけ政府が歳入を増やせればいいのですが(増税するなど)、そうならなかった場合、その分の穴埋めのためにさらなる国債発行で借金をするか、紙幣を増刷するかしなければならなくなります。これを長く続けていると、金利の分だけインフレが加速していくことになります。
したがって、国債の大量発行が長い目で見ればインフレ圧力として働くということはある程度事実と考えていいと思います。日本経済が今のところそうなっていないのは、長期にわたって続けられたゼロ金利政策で市場に余剰資金が溢れ、その余剰資金が金利も含めた新規国債を消化してくれているからだと考えられます。このバランスが崩れたとき、日本経済は一気にインフレリスクが高まることになるでしょう。
お礼
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