国民皆保険を維持するための方策、という点では良い制度だというのが国の主張ですが、単に国民負担を増やすだけ、しかも低所得者ほど増える率が高い(つまり社会保障の理念に逆進的な格差拡大)というのが実情ですのでそこに反発がまずあります。
しかも、制度導入時点ではこの部分をごまかしていた(把握してなかったというのは嘘、なにしろ私の知人(市役所職員)ですら1年前から低所得者への徴収対策の不安をもらしてましたので)という事実が反対世論の加熱を誘っています。
政策的な流れでは、国はアメリカからの内需拡大圧力もあり高度成長期以降の公共事業重視の政策をなかなか改められずに財政赤字を膨らませて、その結果の後始末を社会保障の削減に向けているという指摘があります。
日本の支出に占める公共事業と社会保障の率は、社会保障重視のヨーロッパ型の正反対の傾向にありますので、従来からそこに反対している野党勢力の批判材料があります。(首尾一環して整合性のある批判は共産・社民くらいで、あとは政局に利用しているだけ、という見方もありますが)
また財政危機の中で、過去の政策責任や構造改革の必要性はともかく、いま緊急に財源が無ければもう社会保障を維持できない、というのも国の主張ですが、これにも反論があって、そもそも、前世紀末に行った景気対策名目の大規模な法人減税・所得累進課税の縮減を戻し、収益を回復して史上空前の利益をあげている大企業に以前の負担を求めるだけで消費税数%の財政効果が得られますがこれはまったく議論されず、消費税だけが唯一の選択肢のように世論を誘導していることにも疑問が投げかけられています。(これは民主党も同様)
大企業だけを悪者にして、というのは一面的過ぎるかもしれませんが、実際、この社会保障の政策転換にはまぎれもなく経団連の意向が反映されており、後期高齢者制度における実質負担の変化が高齢者の負担増と企業負担の減という二極に分かれている制度設計をみればこのあたりは明白です。
以上のとおり、後期高齢者医療保険制度への批判が多いのはそれだけの理由があるということです。
ただ、これらの批判にも多くの反論があります。
「高齢者は今まで恵まれすぎていた。若者の負担が今後増えるのだから相応の負担をすべし」「我侭ばかり言われると若い世代にしわ寄せがくるので迷惑」というのが大意のように見て取れますが、正直、今の後期高齢者世代が、この国の過去100年で最も国に苦労させられた(国に殺された人々よりはましにせよ)世代だということを考えると、日本人というのはよくよく恩知らずな国民になったものだと悲しくなりますね。
ともあれ、社会保障の制度設計にはその国の政策の理念が詰まっています。
少なくとも、この高齢者医療制度で今回国が示した政治理念は、「高齢者の医療費が高いのは自己責任だから若年の国民と企業を守るために老人を特別扱いするのは今後控えてゆくことにするし、もうこの国には高齢者を最後まで保護する能力も無い」というものだと理解しています。
国民皆保険制度というのは、日本政府が世界に誇る最高の政策(個人的には理念倒れに近い平和憲法よりも)であることはいうまでもありませんが、今の政府はそれを維持する能力に乏しく、月6万円程度の年金で暮らしている病気がちな老人(平均的とはいいませんがどこにでもいます)という存在に配慮できるような想像力にも欠けているように思えます。
確かに月20万円もあるような年金生活者はそんなに困りませんでしょうね。でもそれを指摘する人々は、なぜか必ず、低所得者の存在を無視します。(きっと彼らにとっては低所得老人など高齢者どころか人間ですらないのでしょう)なんとも不思議です。
まあ、否定的なことばかり書きましたが、事実の歪曲と偏見の権化のような幼稚な回答とか、政府と経団連の主張を丸呑みにした意見もあることですし、バランス取りということで。
あと、マスコミの頭の悪い報道にも困り者ですね。
介護保険制度の頃から健保政策の問題を感じていた自分としては、いまさらのようなヒステリックな煽り報道はむしろ視聴者を馬鹿にしているようにしか感じません。
お礼
ご回答ありがとうございました。 公費っていっても結局税金なわけですから 現役世代はかなり負担してるんでしょうね。