根底には、いわゆる「ガテン系」に対する職業差別もあるのですが、より本質的なことは、犯罪報道(主に逮捕報道)での職業表記の問題です。
例えば、特定の犯罪で逮捕者が出た場合は、「会社員 ○山○夫」とか「団体職員 ○藤○郎」や「農業 ○田○男」のように、職業の後に氏名が表記されます。
この職業表記に関しては、種々の会社形態の組織に雇用されている人は、ホワイトカラーかブルーカラーかを問わず、一括して「会社員」とされます。しかし、建設現場などで作業を行う職人は、建設会社から仕事を請け負っている業者(親方)に従っている場合が多く、会社に所属するという雇用形態ではないため、具体的な職業名として、「とび職」とか「塗装工」や「解体工」などと表記されるのです。
犯罪報道による逮捕者の職業を層別すれば、「会社員」が最も多いはずですが、ありふれているので「また、会社員か」とは思わないのです。それで、たまに「とび職」とか「塗装工」と表記されていると、どうしても目に付きやすいわけです。
これらの仕事は、低学歴者や不良少年が就くものだというイメージとも重なって、あたかも「ガテン系」の職人には犯罪者が多いという短絡的な思い込みが社会の一部に潜在しているのです。
ただし、犯罪報道の大部分は警察発表に基づいているので、実際は会社組織に所属しているのに、警察が恣意的に犯人の職業を「とび職」や「塗装工」という形で発表している側面も否定できない感じもします。
なお、私見では、人を特定して報道する際に、氏名より職業の方が先に表記されることにも疑問を感じています。確かに、職業はその人の属性の一つですが、アイデンティティの全てではないはずだからです。これも行政(警察)の慣習なのでしょうが、この表記の順番自体も、具体的な職業名をことさらに強調する結果を招いているような気がします。
他面では、ただの「会社員」と言われるよりも、「とび職」や「塗装工」と呼ばれることに、職人的なプライドをもっている人が多いことを付記しておきます。