a) について。
公衆送信(送信可能化)権に関して、「他人の著作権に係る著作物を勝手に公衆送信する行為」だけでなく、「著作権者がする公衆送信を妨害する行為」も、その権利の侵害に当たるのではないか?ということですね。
これは面白い論点だと思います。前者に関しては当たり前のように議論されていますが、後者、つまり公衆送信権に基づく妨害排除請求が可能か否かという議論は、あまり聞いたことがありません。
ただ、他人のインターネット掲示板を利用する以上、その利用規約等に拘束されることになりますから、他人の名誉声望を害したり、プライバシーを侵すおそれのある記事の削除は、掲示板管理者(ないし運営者)の(契約上の)正当な権能として認められるでしょう。一部修正も同様と考えられます。
b) について。
プロバイダ責任制限法に関しては明るくありませんが、これは民法の一般原則に対する特別法と理解できると思います。したがって、上述のとおり、「著作権者の公衆送信を妨害する行為」が公衆送信権の侵害に当たるか否かという議論があるにせよ、インターネットサービスプロバイダの行為による民事上の損害について、広く適用されることになると思われます。つまり、a) の議論がどちらにつくにせよ、記事の削除という行為によって当該記事の投稿者に損害が発生した場合でも、合理的な理由がある限りは免責される、ということになると思われます。
c) ケースによると思います。たとえば、一話完結型の連載は、その1つ1つが独立した著作物となります。逆に、掲示板システムの制約上、1つの話題を複数回の投稿に分けなければならない場合(字数制限など)などは、それらをまとめて1個の著作物とみることもできるでしょう。
d) そうなると思われます。
e) 「やむを得ない改変」がどの範囲を指すのかは議論がありますが、例えば、明らかな誤字脱字の訂正、旧字を新字に改める、などが代表例であると言われます。これに準じて考えれば、文字化けを訂正しようとしたができない部分が残った(欠落した)といった範囲に限られると思われます。
一連の投稿が1個の著作物であった場合に、その一部を削除することがやむを得ないと判断されるのは、やはり a) ないし b) のような場合であると思われます。したがって、たとえ同一性保持権の侵害に当たるような態様であったとしても、掲示板の利用規約やプロバイダ責任制限法の規定により、免責されると考えるのが妥当かと思います。
ルール違反が軽微であっても、契約や法律に違反していることに違いはありません。したがって、重大な違反との差異はないでしょう。
ただし、問題は、「軽微であってもルール違反」なのか、「ルール違反に見えるが実はセーフ」なのかの判断であると思われます。たとえば、一筆「公序良俗に反する書き込みは削除します」とあっても、「公序良俗」が何をさすのかはケースバイケースです。例えば、青少年向けのサイトの掲示板に露骨なわいせつ表現を書き込むことは公序良俗違反になるかもしれませんが、アダルトサイトの掲示板であれば一定程度は許容されると考えるべきでしょう。
したがって、どのような行為がルール違反に当たるのか例示するなどして、当事者の予見可能性を高めておくことは必要であると思われます。
お礼
御回答ありがとうございました。 2回御回答いただき、一部こちらの誤解も訂正していただき大変参考になりました。
補足
>「送信可能化」というのは、かなり端折った言い方をすれば「著作物をサーバーにおいて公衆の >求めに応じて当該著作物が送信され得る状態にすること」です(著作2条1項9号の5)。そして、 >著作権者は、送信可能化権を専有し(著作23条)、これを他人に許諾する権利を有します(著作63条)。 >したがって、(財産的)著作権の本質は、その利用行為に対する許諾権(裏から言えば禁止権)です。 >つまり、「他人が自己の著作物を送信可能化する」ことについて、それを許したり禁止したりする >ことができる、ということが送信可能化権の本質であると考えられます。 >このように考えると、「許諾なしに(あるいは禁止に反して)他人の著作物を送信可能化する行為」が >送信可能化権の侵害に当たるということになります。 おっしゃりたい事はわかります。 つまり、著作権者は、「公衆送信権等」で送信可能化を専有しているので、それを破られる、即ち 無許可での送信や希望していない送信が、「公衆送信権等」の侵害にあたるということですね。 さらに言えば、「公衆送信権等」は、送信可能化を「専有」している事が本質で(上で述べたように 他人に破られない)、保護権的性質が主であり、「公衆送信権等」に基づいて送信可能化せよという 請求権的性質はもたない。少なくとも主ではないということでしょう。 >何らかの方法で「自己の表現の流通を円滑化させる」力を私人に認めることは、ある程度は担保 >されなければならないのかもしれません。その際に、著作権を取っ掛かりにするというのは、 >法政策論としては非常に興味深いものがあります(将来、機会があれば勉強してみます)。 将来を考えるとそうですね。お勉強の成果期待してお待ちします。 >ある著作物と他の著作物とが1つの著作物に包含されるか否かは、著作者の主観にのみよるわけで >はありません。したがって、著作者が「これは1つの著作物だ」と思っていても、客観的には1個1個 >べつべつの著作物であると判断される場合もあります。 要は、見かけや著作者の主張は一著作物でも、客観的には「木に竹をついだ」ようなものであったり、 異なる(自己の)著作物の寄せ集めのようでは、一著作物とは言えないということですね。 >著作権法は「記述の内容」には関心を持っていません。したがって、わいせつ表現であれ、他人の >名誉を傷つけるものであれ、著作物性に消長を来すものではありません。それゆえ、そのような情報 >であっても、著作物である限りは同一性保持権を有します。 >これに対し、プロバイダ責任制限法では、他人の名誉声望を害する情報やプライバシーを侵すおそれ >のある情報について、これを削除して情報の発信者に損害が生じたとしても、一定範囲で免責される >ことになっています。 「やむを得ない改変」の捉え方が間違えたようです。 まず、基本的に著作物であれば同一性保持権を有す(単体の著作物であれば一部への改変を拒み、 複数からなる一著作物であれば、著作物を構成する個々についてその一部の改変を拒むと同時に、 構成物を丸ごと改変する事(削除)を拒む。) その上で、著作権法にいう「やむを得ない改変」は認容される。 これを前段として、今回の複数の投稿からなる一著作物に対して、一部を改変しても、 特定電気通信役務提供者が、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合の 「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。」 に該当する時は、 当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、賠償の責めに任じない。 (今回の例では言えば、著作権法違反の損害賠償を免れる) ということですね? >ただ、掲示板管理者と利用者との間で、なんらの合意も形成されていないとすることはできないと >思います。利用者にしてみれば、少なくとも他人の管理下に自己の記述をおくことを意識している >わけですから、黙示的にであれ、何らかの形で、何がしかの合意は生じていると考える必要がある >でしょう。 やはり微妙な問題ですね。 なんらかの合意はあるのでしょうが、その合意が利用者各人に依存して統一的な合意が形成できない ように思うのです。 「削除ルールがあるのか、違反しないように気をつけて掲示板を利用しよう」 「削除ルールなんてあるかも知れないが知らないよ。とりあえず使わせてもらうか」等々 「削除ルールを了解できない限り、当掲示板を使用しないでください。」と一言書いてあると 話は落ち着くのですが・・・