ご質問に即してお答えします。
英国の抱える国際問題
北アイルランド問題について、英国は基本的に国内問題であるというスタンスです。もちろん、隣国アイルランドとの関係や、もうちょっと大きくアメリカとの関係も(アイルランド系移民が多い関係で)あるので、国際問題的要素は持っています。あと、イラク戦争とその後の処理に、米国と並んで深く関わっていることは、おそらくいうまでもないことでしょう。海洋国家の英国は、もともと人員の少ない陸上兵力の3分の2(あやふやな記憶ですが)をイラクに派遣していて、国内では「国防機能を阻害する」といった批判も出ているほどです。
このほかの直接的な国際問題としては、フォークランド諸島の帰属問題があるでしょう。アルゼンチンとの間で戦争になったことでも知られていますね。紛争はもちろん収束していますが、領土問題としては継続中です。
経済問題としては、欧州共通通貨「ユーロ」への統合問題があります。英国スターリング・ポンドは、EU圏内の有力通貨としては唯一、ユーロへの統合を拒否して独自の通貨として存続しています。今の英国政府は本音では、ユーロにしたいと思っているようですが、英国内では保守党支持層を中心に、幅広いEU不支持層がいて、欧州議会選挙でも「EU反対派」が多数を占めることがあるという国柄ですので、言い出せないというのが実態のようです。ただ、ユーロ圏でないことで、大陸との通商に支障が生じていることも事実なので、それほど遠くない将来に統合に向けた動きが具体化するかも知れません。
そのほか、日本ではあまり注目されませんが、地中海の入り口・ジブラルタル海峡の両岸は現在英国領となっており、特にスペインが返還を求めているという意味で領土問題となっています。
英国と日本の任命方法の違いについて。基本的には大きな差はありませんが、日本の場合は手続き上、衆参両院で首相の指名選挙が行われるのに対し、英国では、憲法的な慣習として、下院で相対的に多数を占めた政党の党首がほぼ自動的に、女王から組閣を要請されるという形で首相に指名されます(下院での首班指名選挙はない)。
権限、責任について。法律に明記された権限でいうと、日本の首相が実は圧倒的に強力なのですが(その意味では、日本の首相は合衆国大統領より強力な権限を持っているといわれることすらあります)、実際上の権力としては、英国の首相の方が強いでしょうね。
背景としては、英国が慣習を中心とする不文憲法の国であること(だからそもそも法律に明記されている権限が少ない)と、英国が「国民主権」よりもむしろ「議会主権」といわれるほど、議会の権限が強いということが挙げられるでしょう。
前者についてはともかく、後者については少々説明が必要ですかね。英国では、多数党は圧倒的な力を持っています。本会議中心の審議をする英国議会にも委員会というのはあるのですが、その委員会の委員長は多数党が独占してしまいます。日本のように議員数に応じて割り振るというようなことはないわけです。また、英国の政党はそもそも党首の権限が強く、一人で党の方針を決めることができます。さらに、閣外相が党や議会の役職を兼ねることになっているため、これら閣僚が党と議会をコントロールする体制になっているのです。その結果、「犬を猫にすること以外は何でもできる」といわれるほど何でも法律で決めることができる英国議会を、内閣がコントロールできるわけで、その結果、内閣の閣僚を指揮する首相が強力な権力を発揮できる、というわけです。
日本の場合、法律上の首相の権限は先に述べたように数多いのですが、それを行使するには事前に与党に説明した上で、承認を得るというのが自民党政権下の慣行になっています。小泉さんになって多少は崩れていますが、それでも党が承認しない議案は基本的に国会を通らないことは永田町の常識なので、実際には首相よりも与党の方が権力が強く、その結果「みこし(=首相)は軽くてパーがいい」とまで言い切る政治家がかつていたほどです。その人が英国の制度を習って政治主導を確立するという大義名分で導入したのが副大臣・政務官の制度ですが、これも今のところ、期待ほどに機能していないのが実際のところですね。