1.文書偽造の点について
刑法上、文書偽造関係の罪は、詔書偽造等罪(刑法154条)、公文書偽造罪(刑法155条)、虚偽公文書作成等罪(刑法156条)、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)、私文書偽造等罪(刑法159条)、虚偽診断書等作成罪(刑法160条)があります。
このうち、詔書偽造等罪(刑法154条)と虚偽診断書等作成罪(刑法160条)が、今回の場合関係ないことは直ぐにお分かりになると思います。
その他の文書偽造の罪が、今回のケースで成立するかどうかを見てみましょう。
公文書偽造等罪(刑法155条)にしろ私文書偽造罪(刑法159条)にしろ、公務所や他人の氏名を使用している場合に罰せられるものです。従って、今回のように、他人の氏名を使用したわけではなく、真正な自分の氏名を記入している場合には、それらの罪は成立しません。
虚偽公文書作成等罪(刑法156条)は、「公文書」を作成する権限のある公務員が、真実に反した公文書を作成した場合に成立する犯罪ですが、そもそも来訪者が来訪目的などを記入するための文書は、「公用文書」ではあっても「公文書」ではないので、この罪も成立しません。
公正証書原本不実記載等罪(刑法157条)は、虚偽の申し立てをして、公務員がその職務上作成する文書又は電磁的記録である公正証書に不実の内容を記録させた場合に罰するものですが、来訪者の氏名・所属・目的等を記入する文書は、ここにいう「公正証書」とは認められませんので、この罪も成立しません。
従って、刑法上の文書偽造関係の罪は、今回の場合どれも成立しません。
2.組合役員の選挙運動について
地方公務員法36条により、地方公務員は、当該職員の属する地方公共団体の区域内において、特定の政党や特定の候補者を支持または反対するための政治的行為を行うことが禁じられております。
この規定に違反した場合には、国家公務員法(国家公務員法102条、110条1項19号)と異なり、地方公務員法に罰則の規程はありませんが、戒告、減給、停職、免職などの懲戒処分をすることができます(地方公務員法29条1項1号)。
しかし、当該職員の所属する地方公共団体の区域外であれば、特定の候補者の応援演説などは可能です(地方公務員法36条2項)。
そもそも、地方公務員は、『組合』を作ることを認められておりません。地方公務員に認められているのは、『職員団体(地方公務員法52~56条)』を作ることのみです。
この点で、『組合』を作っていること自体が、そもそも地方公務員法29条1項1号違反であると言えるのですが、現在まで、長年にわたり黙認されてきている状況です。
そして、地方公務員の組合が政治活動をすることも、地方公務員法違反の行為でありながら、現在まで長年にわたり黙認されてきている状況です。
従いまして、「政治活動は地方公務員法違反だから止めるべきだ!」とi言うことはできても、政治活動を行ったことによって具体的に特定の職員を懲戒処分に付することは、現実には難しいものと思われます。
お礼
丁寧な回答、ありがとうございました。 法律は調べるのが面倒で…というわけではないのですが、どこから調べたら良いかわからないで今まできてしまいましたので、たいへん参考になりました。