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ゴキブリにも記憶や条件反射はあるのでしょうか
ゴキブリは実に素早く逃走しますが、あれほど迅速に動くにはあらかじめ通路を熟知している必要がないでしょうか。またエサなどのありかも記憶して集まるというようなことはないでしょうか。
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生物行動学的に言う場合、「記憶(学習)」と「刷り込み」は明確に異なったモノとして考えます。非常に単純化して言うと「記憶学習は同様の手法によって別の記憶に上書き可能な能力」の事であり、「刷り込みは幼少時にその個体の行動指向性を決定付けた後、その後は上書き不可能な能力」の事です。この大前提で言うと昆虫類、特にゴキブリにはかなり高度な記憶と学習能力が備わっている事が実験によって判明しています。 ゴキブリやコオロギの学習能力に関しては国内外で数多く行われており、その論文なども比較的に簡単に見付ける事が出来ます。良く行われる実験としては、ゴキブリが好む匂いと嫌う匂いを付けた水溶液を2種類用意し、さらにそれぞれに相反する味付けをした水溶液を与える事によって反応を見て、ゴキブリに嗅覚記憶能力の有無を調べます。 - 水溶液A: ミント臭+砂糖水 {×悪い臭い/○美味しい} - 水溶液B: ババナ臭+食塩水 {○良い匂い/×不味い} ~上記の様な2種類の水溶液を用いてゴキブリの反応や行動に変化現れるかどうかを実験します。学習実験前のゴキブリは当然、好物であるババナの匂いがする水溶液Bの方に集まりますが、実際に水溶液を舐めると食塩水であるため忌避行動をします。次に本来はゴキブリが嫌悪忌避するミント臭のする水溶液Aを与えると、最初は忌避行動を行いますが試しに舐めてみて甘い砂糖水である事が分かると、その後は何回実験しても迷う事無く一直線で「嫌な臭いがする砂糖水」を舐めに行く様になります。 この実験でゴキブリはネズミ等よりも学習能力が高く、1回の試行で匂いを記憶学習してしまい、その後は絶対に間違えない様になります。またこの嗅覚記憶学習はかなり長期保存され、幼虫時代に実験を行い記憶学習させたゴキブリを別環境に隔離して成虫まで成長させて再実験すると、再び間違える事無く「正解の水溶液」を選ぶ事が分かっています。平均で4週間ほど記憶が保持される様です。 無論、これは前述の通り「上書き可能な能力」であるため、同様の記憶実験を味と匂いを入れ替えたり別のモノに変えたりして行うと、常に最新の情報に上書きされる事も分かっています。ただし同じパターンの記憶実験を、例えば3回繰り返して行うと人間と同様により強い記憶となり、これを上書きするためには同回数の上書き実験を行う必要があります。 またコオロギの場合はゴキブリよりも長く記憶が保存され、最長では10週間まで記憶が保持された個体もいました。余談ながら通常、自然界でのコオロギの寿命は10~12週間なので実質的には記憶は一生涯残り続けると言えます。さらに同時に記憶保持可能な匂いは7種類である事も分かっています。 尚、この様な「報酬(砂糖水)」と「罰(食塩水)」を組み合わせて行う記憶学習実験の事を「条件付け学習訓練法」と言います。 --- で、本題ですが…質問者が疑問に思っている様な複雑な経路を記憶学習して正解ルートを通り抜ける事は「迷路実験」と呼ばれ、これを突破出来る動物はかなり少数派で代表格はネズミですが、何とゴキブリは昆虫界ではアリに次いで唯一、この迷路実験を突破出来る稀有な存在の昆虫なのです! ですのでそのゴキブリが過去に危機回避のため逃走経路として使った事がある逃げ道であれば、その時により安全で効率的な逃走経路を学習記憶してその後の危機回避に活用する事は充分に考えられる事だと思われます…が!ただしこのゴキブリの「迷路記憶能力」に関して言うと、前段で述べた嗅覚記憶能力とは少し異なっていて。やはり同様にこのゴキブリの迷路突破能力を実験した結果、人間でも初見では突破出来ない複雑な迷路であっても、ゴキブリは5~6回の試行で突破可能になるほど迷路突破能力は高いのですが…少し時間を空けて再実験すると、ゴキブリは完全に正解ルートを忘れてしまっていて初期状態に戻っていたそうです。 つまりゴキブリは複雑な迷路を素早く瞬間的に記憶する能力には優れているものの、それを長期記憶として長く保持する事は出来ないみたいなのです。前段の嗅覚記憶実験の時に見せたズバ抜けた記憶能力に比べると何だか少々、心許ない感じがしますね。 これらの事を総合的に判断して推論するならば…ゴキブリの超能力じみた瞬発的逃走回避能力は、事前の逃走経路の記憶学習に基づくモノでは無く。恐らく本来持っている身体能力を極限まで効率良く駆使した結果のフィジカルモンスターとしても産物ではないかと思われます。つまり瞬間的に的確に最適な逃走経路を選んで逃げているのでは無く、あくまでも超感覚的に発達したゴキブリ体表面にびっしりと生えた微細毛を感覚器として使い周囲の極僅かな空気の流れを感じ取って外的の攻撃を直前で察知。その瞬間に超速ダッシュで第一次的な危機を回避してるのではないでしょうか。 それで最初の攻撃を回避出来れば不意打ちによる致命傷を回避可能となり、最初の絶体絶命のピンチは脱する事が出来ます。そしてその後はとにかく速度最重視で一直線に駆け抜けて壁際まで逃げ切り、後は壁伝いに逃げ込める隙間に到達するまでとにかく一目散に走り切って危険を回避する~みたいなロジックで逃走行動を行っている様に思えます。実際、台所に出没したゴキブリをスリッパ等で叩き潰そうとして失敗し取り逃がしても、小一時間ほどすると性懲りも無く再び現れる事が多いので。この状況では少なくとも命の危険が有る様な危機的状況であっても、ゴキブリにとっては記憶して置くほどの価値が無い出来事であると言えます。 またゴキブリを始めかなり多くの種類の動物が自分自身の糞尿やフェロモン等で匂いによる道標を着けて残す事が知られており、恐らくゴキブリも逃げる時は記憶の中の道順を辿っているのでは無く、その瞬間瞬間で「安全な匂い=道標フェロモン」のより強い匂いのする方向へ最短距離を突っ走っているのだと推測されます。またゴキブリは実は周囲の目で見える景色を記憶する能力がかなり優れている事が分かっており、それと合わせて「最も安全な逃走経路」を瞬時に判断して逃げているのだと思われます。
お礼
私は家族にも明言はしていませんが、ゴキブリが大好きです。敵ながらあっぱれという感じでいます。大変興味深いお話を伺えました。神経と身体能力の巧妙な組み合わせで生き延びるとはますます尊敬したくなります。