ソーシャル・ボンドについて
1アメリカの社会学者、T・ハーシが提唱した理論で、社会的な絆(ソーシャル・ボンド)の強さやその種類が逸脱行為の出現を規定するという主張である。「みんな顔見知りで挨拶がさかんな地域では犯罪が起こりにくい」とのが少々乱暴だがこの理論の立場といえよう。T・ハーシは、社会的な絆として次の四つをあげている
ⅰ愛着 アタッチメント:集団を取り結ぶ情緒的な絆
ⅱコミットメント:集団から得られる利益を考慮し一種の投資として同調すること
ⅲ巻き込み:日常生活の様々な活動に参加している度合
ⅳ規範観念:所蔵する社会の基本的な価値観
2この理論の特徴は「逸脱現象について考える際の問いの立て方を逆にしたこと」にある。
3一般的には「なぜ逸脱は起こるか?」という問いをたてる。すなわち「犯罪はなぜ起こるのか→それは○○が原因だ」と考えるのである。
4ところが、ボンド理論はこの問いを逆にする。つまり、「なぜ逸脱が起こらないのか?」に視点を置くのである。「我々は誰もが逸脱を犯しうる存在である。たまたま逸脱してないに過ぎない」と仮定するのである。この論理を「コントロール理論」と位置づける。
5T・ハーシの主張は概ねつぎのような展開をする。
ⅰ「世間の耳目を驚かす犯罪事件が起こったとき、なぜ、そういうことになったのか」と考える。そして「事件の全貌を知りたい」と思う。そこには「ありえないことが起こった理由を知るために、微に入り細にわたって事件の背景を把握したい」という欲望がある。
ⅱその欲望を否定はしない。しかし、この問いの立て方は「○○事件は、特殊で異常な問題ではない。この社会に生きる者すべてに関わる問題だ」と主張しているようで、実のところは、「事件を自分のあり方から切離し、自分と無関係なもの、無縁のものとして位置づけたいと」いう欲望の発露ではないかと帰結する。