1 殺人罪
まず、桑田が、舞園を、刺殺している点で、「人を殺した」といえるので、殺人罪(刑法199条)にあたります。
2 正当防衛の成否
しかし、本件の場合、ご指摘のとおり、桑田が上記行為に及んだのは、舞園が桑田を包丁で殺そうとしたことに由来する行為であるところ、「正当防衛」(刑法36条1項)により、殺人罪の違法性が阻却されないかが問題となります。
この点、「正当防衛」が成立するためには、(1)急迫不正の侵害に対し、(2)自己又は他人の権利を、(3)防衛するため(防 衛の意思)、(4)やむを得ずした行為(防衛行為の相当性)、という要件を満たす必要があります。
本件では、(1)の要件を満たさないため、ご指摘のとおり、正当防衛は成立しないとなっています。
(一応、詳述しておきます。
(1)にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることをいいます。
(最判昭和46年11月16日)。
そうすると、将来の侵害が予測されるに過ぎないか、又は既に侵害が終了しているときは「急迫」性を欠くことになります。
本件では、たしかに、桑田が、「とっさに剣を取り舞園の包丁を叩き落とした。」(以下、「第1反撃行為」といいます。)時点では、急迫性が認められます。
しかし、舞園がシャワールームに逃げ込んだ時点で、桑田と舞園が場所的に分離された以上、「急迫」性はなくなったと考えるのが妥当でしょう。
遅くても、桑田が、自室に工具セットを取りに行った時点では、「急迫」性を欠くにいたっていることは明らかです。
さらに、桑田が舞園を包丁でさしたということは、すなわち、舞園は、すでに武器を所持していなかった、むしろ桑田が包丁をということが認定できます。
そうすると、ドアが開いたあともなお、「急迫性」は発生しえなかったといえます。
それにもかかわらず、舞園を「刺殺」した(以下、「第2行為」といいます。)行為は、もはや防衛行為とはいえません。
以上より、(1)の要件を欠くゆえに、本件では正当防衛は成立しません。)
3 過剰防衛の成否
では、以上の前提をふまえたうえで、「過剰防衛」といえるのか、主様のおっしゃる疑問について、以下、詳述します。
過剰防衛と評価できれば、刑の減免がなされます(刑法36条2項)。
そもそも、この「刑の減免の根拠」は、過剰防衛は急迫不正の侵害という緊急の事情の下での行為となるから、非難可能性が減少する点にあります(責任減少説)。
「防衛行為の途中から過剰となった場合、第1反撃行為と過剰な第2行為の関係」については、最判平成20年6月25日の判例が参考になります。
この判例では、「時間的・場所的接着性、侵害の継続性及び防衛の意思の有無、行為態様等の総合考慮により、行為の一体性が認められる場合には、全体的に考察して1個の防衛行為と認められる」といっています。
これは、上記の責任減少説の観点から、緊急状況下における心理的圧迫により責任が減少すると考えられるところ、過剰な第2行為は、第1行為と一連の行為と把握しうる限り、緊急状況下での行為として強く非難できない、ためです。
そうだとしても、本件では、第1反撃行為の際には、正当防衛が成立するとしても、第2行為の際には、自室に工具を取りに行く時間があったこと、ドアにより互いの場所が分離されていたこと、ドアに鍵がしまっていないことを桑田は知っていなかったこと等から時間的・場所的接着性を認めることはできません。
このように、上記判例にしたがって第1反撃行為と第2行為とを、一連の行為として過剰防衛の成立を認めることが困難な場合は、「不正の侵害が終了したことを明確に認識しつつ、別の動機によって新たな行為に出た場合」といえます。
そうすると、もはや行為の全体を一連の行為として評価し、ゆえに過剰防衛の成立を認める、ということは困難でありましょう。
したがって、本件では、「過剰防衛」は、絶対に成立しません。
4 量刑
一応、量刑についても述べておきます。
量刑は、違法性が阻却されない以上、前述した「殺人罪」(刑法199条)の量刑、すなわち、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役が考えられます。
桑田は、舞園1人しか殺していないし、殺害方法に残忍性はないので、死刑・無期とされることはないと思います。
お礼
ありがとうございます こういうケースの場合、時間的にも離れていることは過剰防衛自体成立しないんですね いまいち疑問に感じたのですが、そうではないようですっきりしました