貿易自由化による最大の受益者は生産者ではなく消費者です。収入が一定でも、安い輸入品のおかげで購入量を増やせる、あるいは浮いたお金を他の消費に廻せるようになります。より多くを購入できるのですから、それは実質賃金の上昇を意味します。そのため、消費が活性化します。
企業への影響については、国際的に競争力を比較して比較優位にあるか比較劣位なのかで異なります。
・比較優位を保てるのは、技術やブランドなどで競争力があり独自性を発揮できる企業や産業。相手国の関税もなくなるので輸出拡大のチャンスです。
・安全性確保や高精度などで高度な技術力と部品の統合力を要求される産業、例えば自動車、鉄道、産業機械。模倣困難な高度技術を活かした部品。これらはまだ日本の優位産業でしょう。漫画やアニメなど日本文化に根ざした産業は模倣されにくく、収益力をつけることができれば有力な産業になる可能性があります。
・比較劣位となるのは、特に差別化できる要素を持たず模倣されやすい企業や産業。グローバル化の進展で世界各国との距離は縮まっていることもあり、より安価な労働力や企業活動コストを提供できる国に産業を奪われていくでしょう。
・韓国や中国企業に追い詰められた家電、i-phoneの登場でガラケーを駆逐された携帯電話、標準規格部品を組み立てるだけのパソコン、衣料品あたりが、比較劣位産業です。ゲームも海外プログラマの方が安いので将来的に危ないかもしれません。
↓↓↓ここから下は余談です↓↓↓
A) 比較優位の業種:
相手国の関税率が下がるので輸出しやすくなります。ですがこの一行のみでは現実との乖離感から納得頂けないでしょうから、もう一歩踏み込んで書きますと、
1. 地域貿易協定がもたらす経済効果には、貿易促進効果と貿易転換効果というのがあります。
貿易促進効果とは、関税障壁が無くなることで加盟国間の貿易量が輸出入ともに増えること。
貿易転換効果とは、加盟国と非加盟国間の貿易が加盟国間の貿易に代替され、非加盟国との貿易量が減少すること。加盟国からすれば、同じ産品なら関税が残る非加盟国よりも加盟国から輸入する方が安いからです。
ですからたとえば、米韓FTA締結により損失を被るのは、同じ米国市場で韓国と競合産品を多く持つ日本です。私としてはこのような、参加することによるメリットよりも参加しないことで受けるデメリットの方が気になります。常に不利な条件のもとでの競争を今後ずっと強いられるわけですから。
2.企業が海外進出しやすくなることも確かです。
ですが、企業の各組織機能レベルで国際分業が進めば企業経営はより効率化され、企業利益は大きくなります。中小企業でも海外進出している企業の方が業績が良く、国内の雇用を増やしているという調査結果があります。
B) 比較劣位の業種:
安い輸入品との競争を強いられますから、厳しくなるでしょう。ですが経済のグローバル化による競争激化、世界的な賃金平準化はもはや避けられない現実なので、好む好まないではなくどう対処するか準備するほかありません。そこで失業対策の充実など政府の出番です。
以上全てを総合して考えれば、比較劣位の業種を存続させるため貿易自由化に加わらず関税保護を続けると、消費者や他の産業の利益を損ない社会全体が非効率になります。衰退産業から成長産業へのヒトモノカネ資源シフトを阻害し、社会の活力が損なわれ日本全体の力が衰えるということです。そんな一億総ゆとり化思考に未来はありません。
日本市場の研究開発環境、投資環境、競争環境、企業活動コスト環境、人材etcを整備し日本の魅力と活力を高め続け、新しい技術、新しい産業の苗床であり続ける。そのような未来に繋がるグランドデザインを描き、環境を用意していくことが政府の役割です。
お礼
ありがとうございます。ここまで、詳しくは、私の知識だけでは、想像もできませんでした。とても参考になります。感謝いたします。