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不作為の違法確認等請求事件 【事件番号】 平成12年(行ヒ)第246号 【判決日付】 平成16年4月23日 【出 典】 判例タイムズ1150号112頁 1 上告人Xらは東京都の住民であり,被上告人Yらは,自動販売機で販売されるたばこ又は清涼飲料水等の商品の製造業者である。本件は,Yらが自動販売機を都道に権原なくはみ出して設置したことによって東京都は都道の占用料相当額の損害を被ったとして,Xらが,東京都に代位して,Yらに対してその損害賠償又は不当利得返還を請求した住民訴訟である。 2 主婦連等の団体は,自動販売機が道路にはみ出して設置されることは通行の妨害になり,また,酒及びたばこの自動販売機は未成年者の飲酒喫煙の防止の観点から望ましくないなどとして,都道にはみ出して設置された自動販売機を撤去させるための活動を始めることとし,平成2年10月,東京都その他の関係行政機関,酒類及びたばこの製造業者等に対し,はみ出し自動販売機の撤去を促す趣旨の申入れをした。これを受けて,東京都は,積極的に行政指導を行い,Yらの協力を得るなどして,はみ出し自動販売機の撤去を進めた。その結果,本件請求に係るYらの設置した自動販売機を含め,約3万6000台もあった東京都内のはみ出し自動販売機のほとんどが平成6年初めころまでに撤去された。 本件は,Xらが,Yらの設置したはみ出し自動販売機が撤去される以前の平成5年3月又は4月から同撤去の日である同年10月又は11月までの間の都道敷きの占有について,道路占用料相当額の損害賠償請求又は不当利得返還請求をしたものである。 本件の主な争点は,次の2点である。 (1) 東京都が,Yらに対して,不当利得返還請求権又は損害賠償請求権を取得するか否か。 (2) 東京都が上記各請求権を行使しないことが,違法に財産の管理を怠るものといえるか否か。 3 本判決は,まず,前記(1)の争点について,「道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収して収入とすることができるのであるから,道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する」と判示し,Yらは,それぞれ,自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間,何らの占有権原なくはみ出し部分の都道を占有していたのであるから,東京都は,Yらに対し,上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものと判断した。 次に,本判決は,前記(2)の争点について,「Xら主張のとおりにはみ出し自動販売機の占用料相当額を算定するとしても,その金額は,占用部分が1台当たり1平方メートルとすれば,1か月当たり約1683円にすぎず,他方,はみ出し自動販売機は当時約3万6000台もあったというのであるから,東京都が,はみ出し自動販売機全体について考慮する必要がある中において,1台ごとに債務者を特定して債権額を算定することには多くの労力と多額の費用とを要するものであったとして,本件について,『債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たない』と認めたことを違法であるということはできない。」,また,「はみ出し自動販売機に係る最大の課題は,それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから,対価を徴収することよりも,はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図ることを優先した東京都の判断は,十分に首肯することができる。そして,商品製造業者が,東京都に協力をし,撤去費用の負担をすることによって,はみ出し自動販売機の撤去という目的が達成されたのであるから,そのような事情の下では,東京都が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断したとしても,それを違法であるということはできない。」と判断し,Xらの請求を棄却すべきものとした。 4 道路法は,その32条1項において,道路に広告塔その他これに類する工作物等を設け,継続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者(都道府県道については,その路線の存する都道府県である〔15条〕。)の占用の許可を受けなければならないと定めている。そして,その39条1項は,「道路管理者は,道路の占用につき占用料を徴収することができる。」と定めており,この規定に基づく占用料は,都道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入とする旨が定められている(道路法施行令19条の4第1項)。 この占用料徴収権の成否については,占用許可によって初めて発生するものである以上,この許可前にその喪失を観念することはできないなどとして,占用料徴収権の喪失をもって「損失」ないし「損害」とすることはできないとする消極説もあったが(法務省訟務局関係会同資料・訟月19巻10号153頁〔昭48年〕),現在では,当該公共用物が客観的,潜在的に有する私物としての価値が不法占拠によって侵害されているのであるから損失ないし損害があるとし,一般の所有権侵害の事案と同様に,使用対価としての使用料相当損害金等を請求できるとする積極説が有力であり(大野重國「自動販売機による公道の不法占拠と不当利得―いわゆるはみ出し自動販売機住民訴訟第1審判決」平成7年行政関係判例解説138頁〔本件第1審判決判批,平8年〕,法務大臣官房訟務部編『国有財産事務提要』420頁〔昭49年〕,寳金敏明『改訂里道・水路・海浜―法定外公共用物の所有と管理―』318頁〔平7年〕,建設大臣官房会計課監修・建設省財産管理研究会編著『公共用財産管理の手引<第2次改訂版>』195頁〔平7年〕,加藤雅信『財産法の体系と不当利得法の構造』35頁以下,337頁以下〔昭61年〕,杉山正己「道路の管理」裁判住民訴訟法42頁〔昭63年〕等),下級審裁判例も積極説を採っている(東京地判昭61.3.4行集37巻3号257頁及びその控訴審である東京高判昭62.4.9行集38巻4=5号360頁)。 本判決は,最高裁として初めて,積極説を採ることを明らかにしたものである。 5 次に,地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり,免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない(この点に関し,参考となる判例として,最三小判昭57.7.13民集36巻6号970頁,判タ478号141頁〔田子の浦ヘドロ住民訴訟事件〕がある。)。 しかし,本件で東京都がYらに対して取得する債権の額は,占用部分が1台当たり1平方メートルとすれば,1か月当たり約1683円にすぎない。他方,当時3万6000台もあったはみ出し自動販売機について,その1台1台につき,債務者を特定するとともに債務額を算定することは,困難である上,多数の人員と多額の費用を要するものであったというのである。 そうすると,本件については,徴収停止ができる場合について規定する地方自治法施行令171条の5第3号にいう「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たないと認められるとき」に該当すると解することができ,この点について,原判決の同旨の判断は正当として是認することができると考えられる。また,同条の徴収停止が認められるためには,これに加えて,「これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるとき」であることが必要であるが,はみ出し自動販売機の撤去については,東京都がYらの協力を得て,行政指導によって目的を達成したことを考慮すると,そのように協力をし,撤去費用の負担もしたYらから,更に撤去前の供用料相当額の金員を取り立てることは信義に反するとも考えられるところであるから,東京都知事がこれを不適当であるとした判断を違法であるということはできないと考えられる。そもそも,はみ出し自動販売機問題の核心は,これを放置すると通行の妨害となるなど望ましくないので撤去させるべきであるということにあって,設置させている以上対価を徴収すべきであるということにあったわけではないこと,行政指導に応じたYらの協力によりはみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決に至ったことを考慮すると,Yらに損害金の支払請求をすることは不適当であるということができよう。 この地方自治法施行令171条の5の徴収停止に関する判断も,最高裁としては初めてのものである。 6 以上のとおり,本判決は,社会の耳目を集めたはみ出し自動販売機問題から生じた紛争に関するものであり,また,道路の無権限占有者に対して道路管理者が債権を取得するということや,少額債権の徴収停止に関する判断は,はみ出し自動販売機以外の事例についても,重要な先例となるものと考えられる。
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ポイントはこの辺 ↓ この占用料徴収権の成否については,占用許可によって初めて発生するものである以上,この許可前にその喪失を観念することはできないなどとして,占用料徴収権の喪失をもって「損失」ないし「損害」とすることはできないとする消極説もあったが,現在では,当該公共用物が客観的,潜在的に有する私物としての価値が不法占拠によって侵害されているのであるから損失ないし損害があるとし,一般の所有権侵害の事案と同様に,使用対価としての使用料相当損害金等を請求できるとする積極説が有力であり,下級審裁判例も積極説を採っている。 本判決は,最高裁として初めて,積極説を採ることを明らかにしたものである。 本判決は,社会の耳目を集めたはみ出し自動販売機問題から生じた紛争に関するものであり,また,道路の無権限占有者に対して道路管理者が債権を取得するということや,少額債権の徴収停止に関する判断は,はみ出し自動販売機以外の事例についても,重要な先例となるものと考えられる。