トリウム炉は、本当はもっと素晴らしい原子炉です。トリウム炉が実用化されたら、エネルギー問題は全面的に解決される可能性があります。
簡単に言うと、今の日本にある商用原子炉の燃料をトリウム燃料に置き換えると、U-233を増殖して燃料取替えが不要な原子炉になる可能性があります。40年程度燃料補給なしで、発電できるかもしれません。高速増殖炉の冷却材をナトリウムではなく、水で置き換えたようなものです。トリウム炉の真の利点はここです。
しかし、何故実現しないか、いくつか理由があるのでしょう。
溶融塩炉でしか実現できていないのが、本質的な理由と思います。溶融塩炉の材料が実績に乏しい。例えば、40年くらい材料がもつか確証がない。溶融塩炉なので、大型化が難しい。100万KW出力は難しいのでは。
それから、Po-212だったか、非常に強いγ線を出すので、遮蔽が難しい。このために溶融塩炉にせざるを得なかったと思います。
私も、30年ほど前、実際にトリウムを小型原子炉であぶって放射能を測定したことがあります。サーベイメータが振りきれて悲鳴をあげ、自分の後ろにサーベイメータを持ってくると、音が急に小さくなる、自分が遮蔽になっているのです。10分くらいで100マイクロシーベルト(当時は10ミリレントゲン)ほどの被曝になったと記憶しています。
仮に、今の燃料棒のウランをトリウムに置き換えたとすると、今の格納プールでは、人が近寄れないのではないかと思います。このトリウムの放射能は半減期が70年ほどですから、冷めるのを待ってというわけにもいかない。あの時あぶったトリウムは、まだ元気に強烈なガンマ線を発していることでしょう。
同時にあぶったウランは何ともありません。サーベイメータの針はピクリとも動かないし、何の音も立てません。
トリウムは、資源としてウランよりも豊富なので、非常に有望なエネルギー源と思いますが、それだけに解決すべき課題も多くなるのでしょう。研究すべきものです。
あのとき、一緒に実験したのが、今の原子力安全委員会代谷委員でした。当時は助手でしたね。