この手の疑問は良く聞きますが、無認識と誤解ともっともな部分が絡まって、正直、うんざりしてしまうのですが、私なりに意見を書きます。
ノーベル経済学賞は「経済学」賞でして、「経済賞」ではないですよね。ですから、経営者や経済人は対象になってません。経済大国であることと経済学受賞者が出ることは基本的に無関係です。受賞者の殆どはアメリカ人もしくはアメリカの大学在籍者から出てますが、これはアメリカが経済大国だからというより、アメリカの大学(経済学界)のレベルの高さ、層の厚さ、競争的で開放的な環境に起因してます。アメリカ以外の受賞者を見てみてください。経済力とはあまり関係を見出せないでしょう。
では、日本の大学・経済学界の現状というと、ここ二・三十年で随分と層が厚くなってきましたが、出足が遅れた分、まだまだです。第一の理由は、競争的な環境が不足している。第二の理由は、日本の大学では戦後長らく「マルクス経済学」という亜流の経済学が幅を利かせてきた。といったところでしょうか。マルクスは経済学賞の対象外ですし、欧米でEconomicsといえば、日本で言う「近代経済学」のことを指します。
おそらくこの辺が受賞者に数学者が多いという誤解につながっているのでしょう。経済学は数理科学の一分野ですので数学を多用しますが、受賞者の殆どは数学者ではなく経済学者です。
日本人の中にも、候補になって極めて受賞に近づいたことのある人も何人かいるのですが、残念なことに逃してしまいました。日本人経済学者には理論の精緻化に多大な貢献をした人が多いのですが、新しい理論を構築した人は少ない(いるにはいますが)。化学賞の田中さんを見てわかるとおり、ノーベル賞は「新しい理論の構築・ブレークスルーした研究」に与えられるので、この辺で不利になったことは否めないでしょう。
ちなみにシンクタンクや金融機関にいるような「エコノミスト」という人たちは、まず殆ど経済学を理解していませんし、経済学を学んだことが無い。経験とデータだけで経済を語っているだけです。医学の世界では、医学を学ばず伝承療法を行う人を医者とは呼ばないでしょうが、日本の経済論壇ではそれがまかり通るということですね。アメリカのエコノミストは経済学博士号をもっているのが常識ですが、日本の「エコノミスト」で持っている人は稀なはずです。
日本の経済学者はケインズ理論からうまく抜け出てないとか、海外なら新しい理論が出てくる、といった知ったかぶった話には「なんだそりゃ?」としか言えません。そういう人たちは、経済学のことをまったく理解していないことは明らかだと思いますよ。笑い話とやらも、なんだかなぁという感じです。