個人的には「松本サリン事件」「桶川女子大生殺人事件」の二つが印象強いです。
○今回は「桶川女子大生殺人事件」について少し説明いたします。
事件は被害者側が再三ストーカー被害(客観的に放置できるレベルではなかった)を訴えたにもかかわらず警察は放置し、その為に殺人事件に発展したというものです。
この事件では被害者とその家族は、元交際相手からのストーカー被害を幾度となく埼玉県警上尾警察署に相談し告訴状を提出していましたが、警察側は捜査をせずにこれを放置し、被害者の家族に告訴の取り下げを要求したりもしました。この警察の不正は週刊誌フォーカスによって明らかにされています。また、告訴状を改ざんしていたことは内部調査でも明らかになっています。
上尾署の警察官数名は被害者の元交際相手の兄が経営する風俗店の常連で、色々と『いいおもい』をさせてもらっていた可能性も否定できないというものです。
警察が報道陣へ発表する際、Sさんの被害届けを黙殺した不祥事を隠すために、「男女間の痴情のもつれであり警察の介入する事ではなかった」ことを印象付けようとしました。そして「派手な服装であった」「ブランド品を身につけていた」と発表したのが始まりです。これをマスコミの記者たちが鵜飲みにし、 『週刊文春』「刺殺された女子大生”賑やかな私生活”」 、『週刊新潮』「キャバクラ嬢だったストーカー殺人”被害女子大生”の素顔」 、『女性セブン』「美人女子大生-”ブランド依存症”で落ちた罠」
など週刊誌をはじめTVでも偏見に満ちた報道が広がりました。
実際に検証してみると、まず「キャバクラ嬢であった」という報道についてはSさんは風俗店に勤めていた形跡はない。ただ、一度だけスナックで働いていてそれが「キャバクラ嬢」「風俗嬢」のイメージの源泉になっています。
しかし、それは友人に「ひとりでは嫌だから」と頼まれ。付き合いで働いたのであり、事実彼女の肌に合わなかったらしく2週間ほどで店もやめているとのことです。
「ブランド品好き」といったイメージは、加害者(被害者ではない)の押収品からブランド品が発見されたところにあるのですが、これらのブランド品は、加害者がSさんあてに勝手に送りつけられたもので、後でまとめて付き返していたのが実際の話です。
また、被害者が殺害されたときの服装が派手だったと伝えられていますが、事件を追っていた記者の証言では「今の女子大生の服装としてはごくありふれた格好」のものだったとのことです。
このように偏見に満ちた報道によって、被害者の家族達は「娘を二度殺された」と言うほど悲しみに暮れ、詩織さんを良く知る人達は、みなマスコミの報道に憤慨したということです。
また、生前の被害者Sさんと知り合った視覚障害者の方は、駅で電車に乗ったとき、自分とは縁もゆかりもないSさんが声をかけ、自分の通学途中の道を替えてまで付き添ってくれたことを告白しています。この方はマスコミの報道する「歪められたSさん像」に義憤を発し、彼女の名誉のためにわざわざこの事を告白したのだと言うことです。
もう少しだけ話をしますと鳥越俊太郎氏と小林ゆうこ氏共著の『虚誕』警察につくられた桶川ストーカー殺人事件という本があります。その本から小林ゆうこ氏が書いたあとがき部分を紹介します。
「顔を上げて前を向け」「しっかりせい」と、鳥越は機会があるごとにふたりに檄を飛ばした。(中略)憲一さんと京子さんは鳥越との出会いによって、報道被害そして警察過誤で受けた精神的な打撃を自発的に、そしておのおのの行動のなかでごく自然に回復してきたように見える。その意味で猪野夫妻は、鳥越の予想をはるかに超えるスピードで、パワーを取り戻してきたのかもしれない。「被害者は可哀想だけど、みじめではない」京子さんの言葉だ。立ち上がる力を取り戻すことさえできれば、被害者は、相手がたとえ権力であっても恐れることなく戦えるのだという強さを、猪野夫妻は、はっきりと体現してみせた。
解説の必要はないですよね。私はこの本を読んだとき、自然と涙が溢れてきたことを憶えています。