- ベストアンサー
最判昭和51.4.9の内容について
- 最判昭和51.4.9の判例には、代理人が委任事務を処理する際に受領した物を代理人に引き渡した場合、特別な事情がなければ、復代理人の本人に対する受領物引渡義務は消滅するとされています。
- 質問者は、仮に委任事務を処理する際に受領した物を本人に引き渡した場合、同様に復代理人の代理人に対する受領物引渡義務は消滅するのか気になっています。
- 質問者は三省堂の模範小六法の判例を参考にしており、その中で「受領したものを本人に対して引き渡す義務のほか、代理人に対してもこれを引き渡す義務を負うが」と書かれていることを指摘しています。そこで片方の義務が消えればもう片方も消滅するのかどうかについて教えてほしいと述べています。
- みんなの回答 (2)
- 専門家の回答
質問者が選んだベストアンサー
つまり何が問題になったかと言えば、復々代理人は誰に対して受領物引渡し義務を負うのかということです。本人だけなのか本人と(委任契約の委任者たる)復代理人の両方なのかです(理論的には「本人には負わずに復代理人に対してのみ負う」というのもあり得ます。ただ、意味がありませんが)。 一審は、おそらく「本人と復代理人の両方」だと思いますが、もしかしたら「復代理人のみ」という可能性もまったくないとは言えません。しかし、それは迂遠ですから多分ないでしょう。なぜなら、受領物は最終的には本人に引き渡されるべき物ですから、直接本人に対する引渡しを否定する実益は何もないからです。 そして、原審はおそらく「本人に対してのみ」と考えたのでしょう。両方と考えつつ一方を履行しても他方の義務が残ると考えたとは思えません。なぜなら、復代理人が二重の引渡し義務を負うことになってしまいますから。これが冗談じゃない話なのは解りますよね?本人に対してのみと考えているのですから、代理人に対して引渡しても引渡し義務は消滅せず、本人に対して引渡さなければならないということになります。 最後に最高裁は「両方」と考えたのは明らかです。「復代理人は、特別の事情がないかぎり、本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか、代理人に対してもこれを引渡す義務を負い」とありますから。そして、「両方」なのですからどちらか片方に対して義務を果たせば足ります。「もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは、代理人に対する受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務もまた消滅する」としか言っていませんが、逆もまた然り、つまり、本人に引渡せば代理人に対する引渡し義務も消滅するということです。そう考えないと復代理人に理不尽な結果になるのは火を見るより明らかです。加えて、原審の考え方でも本人に引渡すべきで代理人に引渡すべきではないのですから、本人に引渡せば当然何の問題もないということになります。 結局のところ「受領物は最終的に誰の物なのか」であって、「本人の物」に決まっているわけです。であれば「本人が受け取る」限りはそもそも問題は起りません(何らかの事情で引渡しを拒否する利益が誰かにあるとかいうのであればともかく)。ですから、本人に引渡し義務があるのはほぼ間違いないところであり、そうである限りは、本人に引渡せば当然に引渡し義務は消滅します。同じ義務が複数存在する場合には、特段の事情がない限り、一つの義務の履行によって全ての義務が消滅すると考えないと、義務者の負担が過重すぎるのは、常識で解る話でしょう。
その他の回答 (1)
- lowlawrawrow
- ベストアンサー率88% (38/43)
まあそうでしょう。当然と言えば当然です。 復代理に基づく法律関係と委任契約に基づく法律関係は「別」ということを前提に、委任に基づく受領物引渡し義務が復代理においてどういう扱いになるのかということを論じているのがこの判例の趣旨です。しかし、そもそも委任に基づく受領物引渡し義務は、最終的には本人のところへ受領物が渡るようになっているんですから、間をすっ飛ばすのは、手間が省けるだけで全然問題ないわけです。ですからこの判例を考えるまでもなく、本人に引渡せば当然に代理人に対する義務は消滅すると考えるべきです。 この判例は、原審が異なった判断をしたようですが、もし、本人に直接引渡したところ代理人が引渡しを求めたという事例だったら、原審も同じ判断になったと思いますよ。と言いますか、この判決を読む限り、原審はどうも本人は「代理人には引渡しを請求できない」と解しているように読めます。 もうちょっと詳解すると、この事例は、 本人と代理人との間で委任契約を締結し、代理権および復任権を授与した。 代理人と復代理人の間で委任契約を締結し、復代理権およびさらなる復任権を授与した。 復代理人がさらに別の復代理人との間で委任契約を締結し、復代理権を授与した。 この「さらに別の復代理人」(以下、復々代理人)が委任事務を処理し、金銭を受け取った。 そして、復々代理人は復代理人に金銭を渡し、更に復代理人は代理人に金銭を渡した(おそらくその代理人がトンズラしたのでしょう)。 そこで、本人が復々代理人に金を渡せと訴えた。 というものです。 そして、この場合の法律関係がどうなるかということが問題で、 まず、本人と代理人との間には、委任契約とそれに基づく代理関係がある。 代理人と復代理人との間には、委任契約とそれに基づく復代理関係がある。 復代理人と復々代理人との間には、委任契約とそれに基づく復代理関係がある。 本人と復代理人および復々代理人との間には、委任契約は「ない」が、民法107条2項により代理関係がある。 ということを前提に、民法646条1項前段により委任契約において受任者は委任者に対して受領物引渡し義務を負うが、107条2項により復代理では本人と復代理人との間に直接の代理関係が生じることによって、当該引渡し義務がどうなるのかというのが争点。 書いていないですが、どうやら一審は引渡し義務は消滅しないと考えた様子です。代理関係に基づく引渡し義務との関係をどう考えたかは不明ですが、いずれにしろ、復々代理人は委任契約に基づき復代理人に対して受領物引渡し義務を負い、少なくともその義務を果たせば、本人に引渡す義務は負わないと考えたと見て良さそうです。 これに対して、原審は、107条2項により、本人と復々代理人間に本人と代理人との間と同じ代理関係が生じる結果、本人は「復々代理人にしか受領物の引渡しを請求できない」と解したようです。この理屈がどういうものかは原審を見ないと判りません。 そして、最高裁は、原審の判断を誤りとして、 復代理関係においては本人と復代理人との間に107条2項により本人と代理人との間と同じ代理関係が生じるから、復代理人は代理人が本人に対して負う義務と同じ義務を負う。その結果、復代理人は代理人の本人に対する受領物引渡し義務と同じ義務を負う。つまり、復代理人は本人に対して受領物引渡し義務を負う。 しかし、そのために委任契約に基づく復代理人と代理人との間の関係が影響を受けるわけではないから、委任契約に基づく受領物引渡し義務は消滅しない。つまり、復代理人は代理人に対しても受領物引渡し義務を負う。 よって、復代理人は、代理人および本人の双方に受領物引渡し義務を負う。この義務は、どちらか一方を履行すれば、他方は消滅する(ただし、特段の事情があれば別)。 この理は、復代理人が更に復々代理人を選任した場合も同じ。 と考えたわけです。 そして、復々代理人が復代理人に対する受領物引渡し義務を果たした以上は、特段の事情がない限り(例えば、復代理人がネコババすることを知っていたとかでしょうね)、本人に対する義務も消滅する。よって、本件では、本人は復々代理人に対して、受領物引渡しを請求できない。 とこう言ったわけです。 ……続く。
お礼
大変に詳細な解説を、しかもこんなに早く回答していただき、大変ありがとうございました。 ふむふむ、なるほど。 受領物は最終的には本人のものだから、本人に渡れば何も問題は無いはずだよなあ、と、そこは最初から思いつつ、模範小六法とかの判例を読むと「受領したものを本人に対して引き渡す義務のほか、代理人に対してもこれを引き渡す義務を負う」との表現について、まさかそれぞれに独立した二つの義務を復代理人は負っちゃうの?と、変に読み違えてしまったようです。 さらには、判例においては代理人に引き渡した時のことしか書いてなかったので、ますます混乱しちゃったんですね。 渡すものが一個なんだから、片方に履行したら、もう片方への義務は当然に消滅する、という理解でいいんですね。 まだまだ民法を学習し初めてちょっと経ったばかりなので、646条の受任者による受け取り物の引渡しのところまでは、思い至りませんでした、というか、条文まではしっかり読んだことがありませんでした^^;。こちらの条文も合わせて読み込むことで、大分腑に落ちてきたような気がします。 どうも、ありがとうございました!