会社が、個人宛ての封筒の中身を見ても良いかどうかというご質問ですが、ケース・バイ・ケースだと思います。
憲法21条2項には、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と、規定されておりますが、これは、対公権力(特に行政権)に対する国民の通信事項に関して、戦前の思想調査などの目的で調査することを禁止する規定でして、私人間には適用されません。従って、今回のケースには当てはまりません。
それでは次に、刑法犯が成立するかを検討します。
刑法133条には「信書開封罪」が規定されております。『信書』とは、封筒とお考え下さい。法文を記載いたしますと、
「正当な理由が無いのに、封をしてある信書を開けた者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」
そして、135条には、
「この章の罪(133条も含まれます)は、告訴が無ければ公訴を提起することが出来ない。」
と規定されております。
つまり、信書開封罪の場合、基本的に被害者の告訴が無ければ罪には問われません。
そして、他人の信書を開封して告訴があっても、『正当な理由』がある場合には、罪に問われません。
では、『正当な理由』とは、どんなものを言うかが問題です。一般には、
(1)法令上認められる場合、
(2)本人の承諾または推定的承諾がある場合、
に、「正当な理由がある」と考えられております。
ですから、この基準から考えますと、会社宛てに来たものだから全て会社側が開封しても構わないと言うことにはなりません。
例えば、取引先の会社から来たようなものは会社の仕事上のものとして本人の承諾または推定的承諾があるものと考えれるケースが多いと思いますが、発信人が会社の取引とは全く関係ないものであることが明らかなような場合には、この本人の推定的承諾があると考えるのは難しいものと考えます。
但し、この罪の場合には、過失犯を罰する規定が無いので、過失によって、つまり「誤って開けてしまった」という場合には成立しません。
次に、民事上の責任について検討したします。
上に述べた「信書開封罪」が成立するような場合には間違いなく民事上の責任も生じますが、過失によって、つまり、誤って開けてしまったために「信書開封罪」が成立しないような場合にも、それによって精神的苦痛を受けたような場合で、通常ならば、そのような封筒を開封されれば精神的苦痛を受けるであろうと考えられるような場合ですと、開封した人に対して慰謝料を請求することが出来ます。
但し、例え慰謝料を請求できたとしても、慰謝料の額については、その相手方の悪質度や、実際に開封された信書の種類や概観から推測される内容などによって異なるとは思いますが、通常の場合ですと、せいぜい認められても1万円程度ではないでしょうか?
これもケース・バイ・ケースだと思います。