初めまして。20年ほど前まで某自動車会社のデザイン・セクションで仕事をしていました。
カー・デザインの流れというのは今とそう大きくは変わっていないと思いますが、まず「デザイナー」と呼ばれる職種の者が2次元上(紙やディスプレイ)で自動車の主要機器の配置や形を考えます。その時用いられるのは色鉛筆やフェルトペン(俗に言う「マジック」)、パステルそしてCGソフトなどです。
当然自動車は立体物ですから、2次元だけでは前・横・後・上・下の各面の辻褄が合っているかどうか(「前から見た時のプレス・ラインが、横に回ると線が繋がらない」など)を確認する必要があります。
そこで彼は自分の描いた造形を図面に起こします。これは通常の設計図面とは大きく異なり基本的に寸法が入っておらず、描かれている線の通りに物を作るためのものです。
例えば自動車の外形であれば、直線ではなく自由曲線でほとんどすべてが作り上げられ、ボディ面は単純な曲面ではなく複雑な3次曲面で構成されます。ですのでそもそも寸法でその曲面をすべて規定するのは困難なのです(今はCGによってこの点が劇的に改善されていますが)。
ここで登場するのが「モデラー」と呼ばれる職種の人です。
彼はデザイナーがそうして作り上げた図面(「意匠図」などと呼ばれます)を実際の立体物に作り起こすのが仕事です。
そこで登場するのが「インダストリアル・クレイ」と呼ばれる特殊な粘土です。これは暖めると柔らかくなりますが冷えると樹脂のように硬くなり、金属製のカンナやスクレーパーで削る事が出来ます。
その過程の中で図面で表現されている立体形状の確認を行い、図面では表現しきれない微妙なニュアンスなどを更に優れた造形に修正して行きます(件のムラーノのCMは、この段階を表現していると言って良いでしょう)。
こうして作り上げられた造形はコンピューター・スキャナーなどで立体データとして採寸し、設計部門に送られます。
因みにこのクレイモデルは縮小モデルも原寸モデルも作られますが、芯になっているのは木の枠で、これにクレイを荒盛りし、意匠図から3次元データとして読み取ったものを元にしてコンピューター仕掛けの切削機などで大まかに削ってから、モデラーの出番となります。
デザイナーやモデラーは目はもちろん指や手の平も使って立体形状を確認しながら造形作業を進めます。その精度は0.1ミリ以下です。この段階になると、コンピューターでは精度が出ないか、人間がやるよりも時間がかかってしまいます(なにしろデジタル・データがないと、コンピューターは何もしてくれないのですから、そのデータを作る時間も必要になります)。
またクレイモデルは、あえてA案/B案などの複数の造形を同時に検討するために左右非対称に作る事の方が多いです。
でもモデラーの能力をもってすれば、左右対称に作れということであれば十分に可能です。
彼等はそれが出来るだけのスキルを有したプロなのです。
お礼
御回答有難う御座います。 やはりあのようにしてボディを造形していくのですね。 人間の手で、左右対称に作れる事が、私には理解できないくらいです。 ものすごい技術だと思います。 詳しい御回答有難う御座いました。