非上場企業の株主(=オーナー)が「上場するか非上場のままとするか」を判断する基本的なポイントは、将来のリスクとの兼ね合いで「どっちが儲かりそうか」、という事です。
例えば、ある大企業が、将来性のある有望な100%子会社を持っていたとします。選択肢としては、主に、
(1) 上場せずそのまま子会社にしておく。
(2) 上場して保有株式の(例えば)60%を売却する。
(3) 別の会社にその子会社の株式全部を売却する。
の3つが考えられます。仮にその子会社の年間の税引き後利益が100億円として、今後もそれが永久に続くとすると、
(1)では、100億円を永久にもらい続けます。割引率を5%とすると、将来の利益の現在価値は、100÷5%=2,000億円です。
(2)では、上場時の売出価格が、同じく100億円の利益を5%で割り引いたものになると仮定すると、2,000億円×60%=1,200億円が株式売却代金として手に入ります。残る40%の株からは、毎年40億円が手に入って、それの現在価値は800億円です。売却代金と将来の利益の現在価値を合計すると、(1)と同じ2,000億円となります。
(3)では、(2)と同じように価格が決まるとすれば、その代金は2,000億円です。
つまり、(1)、(2)、(3)とも、現在価値ベースでは、金額はまったく同じになります。何が違うかというと、(3)の場合は、将来に利益水準が下がるリスクを完全に回避している、という事です。(1)はリスクがまるまる残っています。反対に、将来、利益水準があがった場合の儲けのチャンスも、(3)ではゼロになり、(1)ではまるまる残ります。(2)の上場はその中間です。
これは、意図的に単純化した例ですが、「上場か否かを考える時」は、非上場のままとした場合の期待利益(とリスク)と、株の売出価格を天秤に掛けて悩むわけです。
現実には、
・親会社が、新しい別の有望な分野に投資する為に、子会社を上場する事で資金調達する
・業績不振の親会社が、利益と現金を手に入れる為に子会社を上場する
・オーナー系企業のオーナーが、名誉欲と目先のキャッシュに目がくらんで上場する
・新興企業等で、成長の為の設備資金の調達が、銀行借入や債券発行では難しい為に、上場して株式を大規模に発行する事で資金調達をする。
といった、他の要素も働きます。最後のものは、上場のメリットとして結構重要です。また、既に他の方から回答があったとおり、上場企業になると、なにかと厄介な事がたくさんあります。
しかし、基本的には、最初に述べたような判断がベースにあると思います。
長々と失礼しました。
追記)「風説の流布」ですが、確かに上場企業の方が、社会的な注目度は高く、ネット上の掲示板もあるし、何よりも、株が取引されている為に、意図的に事実と異なる情報を流して利益を得る可能性があるわけですから、上場企業の方が、かなりそのリスクは高くなるのは事実です。
しかし、非上場企業でも、取引先同士の噂や、業界オタクの掲示板等で、似たような事が起きており、「上場する一番(二番?)のデメリット」にあげるのは、どうでしょうか?
つまり、一般世間には見えにくくとも、上場だろうが非上場だろうが、どんな会社にも、その身の丈に応じて、風説の流布のリスクはある、という事です。(一般メディアに載らなくても、狭い業界での噂は、十分に「暴力的」になります。)