私は専門教育を受けたことはありません。単に趣味でチェロやバイオリンを弾いているだけです。ですからあまりあてにせずに、もし使えそうな部分があるとするなら、一度お試しください。
速い部分で問題が起きているようですから、これについてのみ書きます。他の弦をひっかけるという問題に関しては、またご質問を立てていただければアドバイスできるかもしれません。
では、まず自分が理想と思う速さで曲の一部(「速いけれど難しくはない部分」。これが大事)を弾いてみてください。だれかのCDにあわせて、一部分を弾いてみましょう。長いのは無理でしょうから、長くても数小節くらいでしょうか。
CDをかけながら、その部分に来たら、ヨーイドンで、一緒に弾きはじめます。むちゃくちゃでもかまいません。それを誰かに聞いてもらって、どちらが先に弾き終わるか、を確認してみてください。
ここで確認したいのは。
弾き方が無茶苦茶なのは仕方ないとして、同時に弾き初めて最後の音符を弾き終わるのが、
1.CDとどっこいどっこい
2.場合によっては、自分のほうが速い
意外にもそんなことが少なからずあります。
何を言いたいかというと、速く弾けないという悩みは、多くの人が持っていますが、CDのソリストやプロオケの演奏などは、意外にも我々が思っているほど、めったやたらと速く弾いているわけではないと思うのです。それよりも、彼らの演奏は速いことは速いですが、どんな速度であっても「ちゃんと弾けている」のです。
アマチュアの場合、〔そもそもちゃんと弾けていない(右手も左手も無茶苦茶)〕→〔特に速い音符でそれが起きる〕→〔だから速い音符が弾けないと思いこむ〕、という誤った循環にはまっている可能性が高いと思うのです。
ですから、「速く」ということはとりあえず横に置いて、まず「ちゃんと弾く」癖を身に付けて、それから速さの問題に取り組むべきなのではないかと思うのです。なぜなら、「ちゃんと弾ける」ことは「速く弾ける」ことより、なによりも優先すべき課題だからです。
では、まずさっきの無茶苦茶に弾いた速度を、約半分~3分の1くらいに落としてみてください。
この状態なら、たぶんなんとか弾けるのではないでしょうか。こうやって速度を落として、何をするか。単に速度を落とすだけでなく、速度を落としたことと「引き替えに」やってもらいたいことがあります。
それは、「次の音を弾く準備」なのです。
具体的には(ハ長調音階の例)、
(1)指を押さえる (2)弓が弦に正しく乗っているか確認する(あわせて、弓のどの位置で弾くか、どの程度の強さ、長さで弾くかをちゃんと覚悟しておく) (3)そして音を弾く
(移弦を伴う場合は、(1)の前に移弦が入る)
また、音階を降りてくる場合は、(1)が指を押さえる替わりに、指を離す作業になります。
これらの(1)~(2)の一連の準備作業を「ン」という文字で表現すると。
ン・ド・ン・レ・ン・ミ・ン・ファ・ン・ソ・ン・ラ・ン・シ・ン・ド・・・
といった弾き方になると思います。
この時に必ず注意すべきことは、ここまで準備して弾いているのですから、ちゃんと正しい音が出ているか(音量、音色、音程、テンポ等)、を十分確認してください。特に弾く前に、どのような音で弾こうとしているのか、をちゃんとイメージすることです。このイメージはどんなイメージであっても良いのですが、どちらかと言えば、ふわっとした音よりも、グイっと弾くやや骨太の音をイメージして弾いたほうが良いと思います。と言うのは、そのほうが音の出だしがはっきりしますし、楽器全体に弦の振動がブルブルと伝わってきて、右手左手のタイミングが取りやすいからです。
さて、これで自分のイメージ通り正確に弾けるようになったら、どうするか。「速度を上げる」という意識ではなく、次のようにして欲しいのです。
先にンと音の間に置いた「・」を取るようなつもりで弾いてみてください。
ンド・ンレ・ンミ・ンファ・ンソ・・という具合に。
こうするとわざわざ速度を上げようとしなくとも、少し速度が上がるはず。これもさっきと同じように、正確かどうか確認しながら弾く(なにしろ、速くではなく正確に弾く練習ですからね)。うまく行かないようなら、1段階前に戻ってまた「・」を入れながらやってみる。
次に「ン」と「音」のタイミングを入れ替える。つまり
ドン(このンは次のレの準備。以下同)・レン・ミン・ファン・・・・
これにもなれたら
さらにもう一つ残った、「・」を取る。
「ドンレンミンファンソン・・・」という具合。これも音がイメージ通りに、正しいかどうかを確認しながら、そしてうまく行かなければ、時には前に戻りながら。
ここまでやると、どうでしょう。あまり意識していなくても、ある程度速くなっているのではないでしょうか。しかもグチャグチャな音でなく、ちゃんと一個一個の音が分離して聞こえて。
後は、準備の「ン」をいかに小さくしてゆくかということです。
無理に文字に表すと、
ドンレンミンフンァソン・・・・といったところでしょうか(この「ン」は半角で打っていますが、表現されていますかね)。
ついには、「ン」を殆ど意識しなくともドレミファソラシド・・
っとパパパっと弾けるようになる。かどうか、は何とも言えませんが、少なくとも「正確に弾く能力が磨かれる」、あるいはそういう「良い癖が付く」ことは間違いないでしょう。
もしだんだんスピードアップするに従って、また以前の悪い癖が顔をのぞかせたら、こういう風にしてみてください。
それはどんなに速く弾いている最中でも、きちんと左の各指が弦をピシッピシッと押さえている光景を、かならず頭に描くことです。できれば目をつむって、自分の指や関節の形、しわやほくろまでもが、正確に頭に浮かぶくらいに強くイメージしてください。イメージする結果、速度は遅くなるはずですが、ここは速度より「正確さ」と心得て、がんばってください。いずれ、そうした強いイメージを抱かなくても、だんだん思い通りに指が動くようになる(かな)はず。
さて、こうしたことを基本的な方法として踏まえたうえで、具体的にどういう曲で練習したら良いかということになると。
1.なんといってもやはり音階練習(後述)。
これを避けて通ることはできませんのでいろいろな方法で、取り組んでください。遅く、速く、長い音、短い音、付点のありなし、音階の下から、上から、いろいろです。
2.例えばセブシックのような、指のトレーニング曲。
指そのもののトレーニングができていなければ、自分がいくらこうしたいと思っても指が言うことを聞いてはくれません。
これも遅く、速く、いろいろな音符で大脳と指が仲良くなるまで、飽きるほど練習が必要です。王道はありません。あえて言えばこうした地道な練習こそが王道です。
それから、さきに上げた音階練習のことです。速さの訓練のことは別にして音階練習は必死になってやる必要があります。
ハイフェッツがおもしろいことを言っています。「もし私が一日に1時間しかバイオリンを弾けないとしたら、50分は音階練習にあてていただろう」というものです。
しかし彼はその後、余計なことも言っています「曲の練習など10分もあればたくさんだ」。
この一言があるばかりに、この発言の解釈は二つに分かれています。
○あのハイフェッツのような(100年に一人という逸材)天才ですら、音階練習がいかに大切か、ということを戒めているのだ。
○いやそうではない、彼は後半の一言が言いたい(つまり普通の演奏家が汲々としている曲の練習など、自分にとってはものの数ではない)がために、前段として50分の音階練習のことを持ち出したに過ぎない。
というものです。
この2番目の解釈もあながち根拠がない訳ではなさそうで、ハイフェッツの人柄を伝えるおもしろいエピソードがあります。カルテットか、トリオかなにかの演奏会のチラシを刷るのに、演奏者をどういう順番で並べるか、ということで各奏者がもめたそうです。ハイフェッツ以外の人もいずれ劣らぬ世紀を代表する名演奏家で、互いに一歩も譲らなかったところ、彼は言い放ちました。「順番なんか最初から決まっている。神・ハイフェッツ・・その後はどうだっていい・・」
解釈はともかく、少なくともハイフェッツが音階練習というものを、ないがしろにしていた訳ではなさそうだ、という想像はつきます。我々のようなアマチュアがこれをおろそかにして良い理由は、一つもありません。
退屈と思われがちな「音階練習」。でもこれも、強い目的意識をもって、一体自分がどう弾きたいのか(音量や音色はどうか、とくに苦手な音程はどこか、移弦はスムースか、指の形は正しいか、等々)について、自分を厳しく追求しながらやる必要があります。
なぜなら、こうしたことに鈍感になって漫然と弾いていると、上達が望めないばかりか、仮に上達している場合でも、いい加減に弾いているせいで、その上達に気づかないことがあるからです。逆に神経をとぎすませて弾いていれば、自分の欠点に気づき易いことはもとより、反対にわずかな上達にも敏感に気づきやすくなります(「・・ん?待てよ、今のは少し良かったぞ、もしかしたらこの感じで弾いたのが良かったのかもしれない。よし、今の感じでもういっぺんやってみるか・・」)。そして、それが大きな喜びとなって、次の練習への励みにもなります。いいことばかりです。こうしてやっていると、ハイフェッツが言っている50分などすぐに経ってしまいます。
さて、話が横道にそれました。ここでもう一度冒頭に戻って、「速く弾く」ということの意味を、少し考えてみたいと思います。
1.パニックにならないこと。
速く弾くこともさることながら、実は問題は、「速く弾けないこと」よりも「正確に弾けていない」という要因のほうが多いのではないか、ということ。つまり右(弓)と左(指)のタイミングがデタラメなため、グチャグチャな音になってしまって、結果「速く弾けない」と思いこんでいる可能性は多分にあります。だから、速い部分に来ると頭が真っ白になって、もうがむしゃらに超スピードで弾かなきゃ、という思いこみがあって、出せもしないスピードを出して大事故を起こしているのです。
私も習っていたチェロの先生に言われたことがあります。「速い音符ほどきちんと弾きなさい」と。ピャーと弾くのではなく、音符一個一個を「ブン・ブン・ブン・・・」と弾くくらいの気持ちが必要と思います。
現実問題として、パガニーニのカプリースが弾けるような、すさまじい速弾きを身につけるには、幼少のころからの相当の訓練が必要かもしれません。ですから大人から始めた人は、もしかしたらいつかあきらめる日が来るのかもしれません。でも「正確に弾く」ことを身につけるのは決して不可能ではなく、結果的に少しは速く弾けるようになる可能性があるとしたら、これらの手法を試してみてはいかがか、と思うのです。
「速く弾く方法」と言うより、まず「正確に弾く」ことを目指して欲しいと私が思う所以です。また、何万とあるバイオリン曲の中で、超人的な速さを必要とする曲は、それほど多くはないはずです。演奏技術の巧拙は、単なる速さとはもっと別のところにあるのだと思います。
2.メトロノームの使用
さきにご紹介した練習を行う際には、必ずメトロノームを使用することをおすすめします。これは弾きたい速度にメトロノームを設定するというより、ある程度練習してみて、「よしこの速度でいってみよう(あまり無理のない速度で)」、と決心がついた段階で設定するのがいいと思います。さきにも書きましたが、正確さが最初の目的ですから。
また、こんなことも試してみてください。
メトロノームを、自分が一番弾きやすいと思う速さに調整し、簡単な音階を弾いてみます。もし普段メトロノームを使っていないとしたら、こんな単純なことをするのでも、決して易しいことではない、ということが実感できると思います。
これを易しい練習曲であっても、まるまる一曲を頭から終わりまで、1音の例外もなく、きちんとしたテンポで弾き続けるとしたら、更に困難が伴います。
そんな弾き方をしたら、まるでコンピューター演奏じゃないか、というのは欺瞞です。きちんと弾けない言い訳にしてはなりませぬ。
昔あるプロオーケストラのコンサートマスターと話していたら、たまたまメトロノームのことに話題が及び、こんなことを話してくれたことがあります。
それは、メトロノームを使わないといけないような、テンポの無茶苦茶な人に限って使っていない。それに対して、既にして名人の域に達していて、もうメトロノームなんかいらないような人、そんな人に限って実はちゃんといつも使っている、のだそうです。
さて、これで今のところ私のアドバイスは終わりです。長いばかりで、散漫な内容かもしれませんが、参考になれば幸いです。ご健闘をお祈りします。
なお私も過去に、いろいろな質問にお答えしています。ここに書いたことと同じようなことも書いていますし、ご質問内容によって若干ニュアンスの違うことも書いています。もし面倒でなければ、回答履歴もあわせてご覧ください。
お礼
お返事が大変遅くなってしまって申し訳ありません。 丁寧なアドバイスありがとうございました。 兎に角アドバイス頂いた事を一つ一つやっていこうと思います。 どうも早く弾く事(特にプロと同じ速度で弾く事)ばかりに気がいって もっと大切にすべき部分がおろそかになっていたようです。 またハンパに指だけは動くので(ピアノを長くやっていたお陰?) 指の動きに弓がついていっていない状態でした。 まずはゆっくりと、正確に。 基礎が出来なければ応用などで切るはずはありませんから。 アドバイスありがとうございました。