率直に言うと、心理系の資格だけですぐに就職できるような仕事は
臨床心理士以外、ほとんどありません。強いて言えば、
産業カウンセラーがわずかにあればいいくらいでしょうか。
しかし、臨床心理士でもほとんどが非常勤の仕事ばかりです。
結論から言うと、学校心理士の資格だけでスクールカウンセラーには
なれません。スクールカウンセラーの求人を見ると、
「臨床心理士、もしくはそれに準ずる者」となっているところも
ありますが、志望者も採用されるのも臨床心理士ばかりで、
正直飽和状態です。
教員が心理系の資格を学び取得することのメリットとしては
●精神論に偏らず、学習デザイン(いかに効果的な教科指導ができるか)
および生徒の問題の本質をとらえた指導において、
きめの細かい指導と支援ができる
●心理的支援を必要とする生徒を、早期発見し、問題にふさわしい
専門家(精神科医・心療内科医、カウンセラー、福祉施設など)に
適切につなぐことができる
●特別支援教育における、理論に基づいた理解と指導
●学校組織におけるメンタルヘルスの啓蒙・教育活動
といったことがあげられます。
しかし、教員がスクールカウンセラーを兼ねることは、
心理臨床の倫理として絶対に不可能です。
心理臨床では「二重関係」ということを堅く禁じています。
つまり、教室で「教員と生徒」という関係性が一度でもあると、
「カウンセラーと来談者」というもう一つの関係が築けないのです。
カウンセリングは、来談者が普段生活している組織や生活環境から
全て切り離された場所を作ることが前提です。この前提があって、
来談者=生徒は、教員や他の生徒、家族にも言えないような本当の
ことを、誰にも気兼ねすることなく話すことができるのです。
一方、カウンセラーもカウンセリングルーム内のみの関係性にする
ことで、カウンセリングの内容の守秘義務を約束することができます。
カウンセリングが終わった後、カウンセラーが教員として
他の生徒や親と接触しているところを見てしまったら、
来談者=生徒は自分の話がもれることを嫌でも気にしてしまいます。
それと、教員の本分とカウンセラーの本分は相容れない部分があります。
教員は、ある一定の価値観やものの考え方を“教え込む”立場ですが、
カウンセラーは生徒自身の価値観や考え方を、無条件と言っていいほど
ありのままに受け入れ、話を黙ってじっくり聴き取る立場です。
心理職の本分を知らない人、「カウンセラー」の表面的な部分に
あこがれている人たちの中には、心理学の知識をもって人のこころを
読み取り、心理学によって相手を分析してアドバイスをする者、と
誤解をしている向きが多いのですが、よっぽど深刻な問題があって
積極的に介入をどうしてもしなくてはいけない場合以外は、
基本的にカウンセラーから何か教え込んだり、積極的に
自らアドバイスするようなことはありません。
ということで、教員がスクールカウンセラーに近い仕事
(生活指導などで相談にのるなど)をしている事例はあるようですが、
教員とスクールカウンセラーを兼ねている事例はありません。
教員に臨床心理士取得を勧めている自治体もありますが、
その目的は特別支援教育だったり、生徒の生活指導などのケア、
あるいはひどいところになると実態は
「精神科医やカウンセラーにつなぐ必要がありそうな生徒を
出さないようにする、あるいはそういう生徒を学校で面倒をみずに
済むようにするため」だけ、というところもあります。
保護者に許可なくクラスの全生徒に心理検査・知能検査を
興味本位で実施したという事実が発覚し、教員の立場を利用して
心理臨床の有資格者の倫理に反する問題をおかした、と非難される
できごとも起こっています。従って、メリットはなくはないが、
心理職と同じ仕事や役割をしたいなら、教員の職を離れるしかありません。