韓国プロ野球を毎年二、三試合ほど見に行っている者です。
私もその留学生の方と同じく「トップクラスの選手の実力は甲乙付け難いが、韓国はそれ以外の選手の層が急に薄くなる。ペナントレース的な長期戦や、各々2チーム以上作っての対抗戦をしたとすると韓国の分が悪い」という見解です。
韓国のプロ野球は1982年に始まりました。発足初年度ですからやむを得ないとは言え、この時点での日韓の実力差は歴然としていました。日本では既に下り坂であった白仁天や張明夫(福士明夫)が、いきなり4割、30勝という成績を残したのですから自明です。
しかしその後韓国プロ野球のレベルは着実に上がっています。ご承知の通り昨年のワールドベースボールクラシック(以下WBC)では、日本は優勝したものの韓国との対戦成績は結局1勝2敗でした。このことは冒頭に述べた、トップクラスの選手の実力は甲乙付け難いということの証左ともなるでしょう。
ところがそれ以外の選手も含めての韓国プロ野球全体を見ると、日本とは微妙な差を感じます。一つは繰り返しになりますが層の薄さです。日本では野球部はほとんどの高校にありますが、韓国では限られた高校にしかありません。そしてその高校で野球を続けるためには、中等学校(中学校)で野球で優れた成績を収める必要があります。韓国では野球に限らずサッカーなどでも、そのような「ふるい落とし式」の育成が行われています。この方式は激しく競争させることで選手の実力を高める効果はありますが反面、裾野の広がりが限られますし晩成型の選手の芽も摘まれてしまいます。
韓国では「右投げ左打ち」は確かに少ないですね。これは初等学校(小学校)や中等学校の時分にそういう指導をする指導者がまだ少ないからと聞いています。最近は若手で右投げ左打ちや右投げ両打ちの選手も少しずつ増えていますが、レギュラークラスで右投げ左打ちとなるとLGツインズの朴龍澤が思い付くくらいです。
プロ野球球団の資金力にも大きな違いがあります。物価や所得の水準そのものは、昨今のウォン高も影響して日韓の差はあっても2割や3割といった程度です。ところが野球に関する経済指標にはまだ数倍の隔たりがあります。
韓国の球場での入場料はバックネット裏で1万ウォン(1300円)程度に過ぎません(*1)。内野席は基本的に全席自由席で、入場料は5千ウォン~6千ウォン(650~780円)です。外野という区分は基本的になく、「一般席(自由席)」の切符を買えば内野でも外野でも好きな方に入場できます(*2)。
この安さはファンにとってはありがたいですが、裏返せば球団の収入はそれだけ少ないということになります。となると運営費用は切り詰めねばならず、選手の育成にお金をかけるのも難しくなります。このことも「二番手選手以降の力が急に落ちる」に影響しています。
参考までに現時点での最高年俸選手は三星ライオンズの外野手・沈正洙で、推定年俸は7億5千ウォン(9600万円)です。日本でもプレーした李鍾範(起亜タイガース)が5億ウォン、昨年の三冠王・李大浩(ロッテジャイアンツ)でも3億2千万ウォンと決して高くありません。入団1年目の選手では2千万ウォン(260万円)という年俸すら珍しくないです。年俸の点でも日本と明らかに格差が存在します。
リーグ間で移籍した選手の活躍度の観点からも検討してみます。日韓2つのリーグに所属した選手は少なからず存在しますが、下記は各リーグでの活躍度合いをざっと分類してたものです。
(A) 韓国で活躍していた選手が、日本に来ても大活躍~そこそこ活躍
宣銅烈、李承[火華]、李鍾範、T. Woods、S. Greisingerなど
(B) 韓国で活躍していた選手が、日本に来たらいま一つ実力を発揮できず
鄭[王民]台、鄭[王民]哲、C. Brumbaugh、李炳圭(奮起に期待)
(C) 日本で解雇された選手が、韓国に渡ったら活躍
塩谷和彦、M. Randel、K. Rayborn
(D) 日本で解雇され、韓国で再起を期したが結局活躍できず
(選手名は敢えて挙げず)
これらに対し「韓国で解雇されたが、日本に来たら大化け」という選手には心当たりがありません。韓国で解雇されるクラスの選手が日本で割り込むのは厳しいというのも「層の厚さの違い」の一つの裏付けとなるでしょう。
それから兵役の話題が出ましたので、それについても簡単に触れておきます。韓国の男子には兵役義務がありますが、国際大会で優秀な成績を収めた選手は免除(*3)されることもご存じかと思います。最近ですとWBCの4強入りが対象になっています。国家代表に選ばれるようなトップクラスの選手は兵役の影響を受けずに済む可能性もかなりあるわけです。
兵役免除を受けられなかった場合の次善の対応は国軍体育部隊(尚武=サンム)入りです。兵役での所属が国軍体育部隊になればその競技でのトレーニングを積むことができ、選手生活への影響は最小限にとどめられます(尚武チームはプロ野球の2軍リーグに参加しています)。当然ながら尚武入りを希望する選手は多いのですが、狭き門なので実績のない選手は選考に漏れて一般の兵役に回ることになります。このことも二番手選手以降の力が落ちることの一因になっているでしょう。
そのほか実際に観戦して気が付いたことを述べます。それはいわゆる「球際」の対応力の差です。
韓国もプロ野球ですから一通りのプレーは無難にこなします。しかし難しいゴロが飛んできた、野手からの送球がそれた、走者と交錯したといったときにポロポロこぼすケースをしばしば見ます。これらのケースでも日本の1軍選手はたいてい難なく捌くことを考えると、微妙な部分での実力差は否めません。ちなみに日本でも2軍の試合だとこの「球際」に弱く、結構ポロポロやります。
結論としては、繰り返しになりますが「トップクラスの選手の力は甲乙付け難いが、選手層の点では日本が一枚厚い」と申し上げられるかと思います。
*1 球場により多少異なる。また「特別指定席」という机付きのゆったりしたシートを設けている球場もあり、その区分の入場料は2万ウォン程度する。もちろんそれでも日本よりはるかに安い。
*2 仁川・文鶴球場のように外野と内野で入場券種別(と料金)が区分されている場合もある。
*3 4週間の基礎軍事訓練のみとなる。