チンパンジーについて申し上げます。
チンパンジーは商取引の禁止されている生き物です。日本の税関を通るには個人ではムリです。いわゆる闇レートでは高額で取引もされているのでしょうが、あいにく存じませんし、また以下の理由から知っていたとしても勧めません。
一つに、大型類人猿の全ては大人になると人間にとって大変危険です。一度ニホンザルの雌とひっぱりあいっこをしたことがありますが、わずか数キロの雌でさえしばらく私と互角の力を出すほど見た目よりも野生の動物というのはパワフルです。エドガー・アランポーの「モルグ街の殺人事件」では雄のオランウータンが人間を文字通り八つ裂きにしていますが、それの半分ぐらいのチンパンジーの雄でさえ同じことをするのはおそらくたやすいのではないでしょうか。実際に同種のチンパンジーをリンチにかけてばらばらにした群の記録もありますしね。
おしめをつけられて可愛い服を着、商業主義の生け贄に見えるようなブラウン管の中のチンパンジーでさえ人間の社会に適応しているわけではありません。証拠にそれらの個体はすべて子供か、非常に若くまだ成熟していない個体であるはずです。制御できないのでチンパンジーの大人は出せないのです。
また、すべての真猿類はものすごく好奇心旺盛な生き物です。おまけに知能も大変高いため、いたずらが好きです。ただ人間から見るとただのいたずらですむものはあまりありません。ですから檻の中に閉じ込めることになりますが、その好奇心が満たされない檻の中では彼らは死ぬほど退屈するだけで、その憂鬱から肉体的健康さえ損なうことになるでしょうね。
同時に彼らはあくまで野生の生き物です。チンパンジーのことを何も知らない人間に囲まれた一匹だけの環境で健康な発育を得ることはできません。
特に密売される個体がそうですね。彼らは幼い可愛らしい外見をした幼児で、人間にそっくりなので心惹かれない人はあまりいないでしょう。が、彼らはたいてい子供を取る目的で業者が自分の目の前で母親を撃ち殺す、その心的ショックをえたまま過酷な輸送を経験することになります。専門家でもその心の傷をケアするのは大変と聞きます。
まだチンパンジーを買ってはならない理由は続きますよ。チンパンジーを診られる獣医師はそのへんに転がっていません。もしtakashi0629さんがインフルエンザにかかったとします。あなたのチンパンジーにもうつるでしょうね。でも、人間の薬を与えるわけにはいきません。
ついでに、維持費に莫大な費用がかかるだろうこともつけ加えておきます。おそらく、餌代だけでご夫婦の一ヶ月の生活費と同じぐらいかかりますよ。
つまり、takashi0629さんが運良くチンパンジーを手に入れたとして、あなたは日に日に手におえない怪物に成長していく上に日々檻に閉じ込めておくことしかできない住宅破壊魔、それも見ていて何の楽しみも得られない不健康な生き物を飼うことになるでしょう。
チンパンジー以下珍しい生き物は諦めてください。「珍しい生き物」というのは蒐集趣味のある人間にはそそられるものかもしれませんが、詳しくない人間、不十分な設備で飼われた動物にとっては単なる残酷物語です。
寂しさはわかるような気がします。私はまだ若輩者で、まだ人生これからだという段階にいるためにその寂しさがわかるというととても失礼かもしれませんが・・・。 人生とは何か、生きる目的とはとお考えになりはじめた年齢、これからどう生きるかではなく死期に向かってどのように人生をまとめていくかという方向へご自分が自然と向いたときに、伝えるべき子孫がいないことが寂しいのではないかと思いました。
猿は確かに見た目は人間に近い生き物だと思います。知能も大変高く見ているだけでは楽しそうですが人間の社会と交わることができません。もし、人間の社会に順応でき、もっとも人間を理解することのできる生き物をお望みでしたら犬をお勧めします。個体にもよりますが、雌のほうをお勧めします。より訓練を受け入れやすく、細やかな気がします。
ですが、もし完全にご自分達の子供代わりとしてペットをお求めなら猫のほうをおすすめします。猫は手触り、大きさ、手間が犬ほどかからない点から優れたペットです。見ていて飽きないし、曲線美だけでつくられた生きる芸術品です。子供のいない夫婦が猫と暮らしたことを書いた、有名に本に村松友視の「アブサン物語」があります。読みやすい本なので一度いかがでしょうか。
ただ、どのような生き物を飼うときでも購入する前にこれだけはお願いしたいのです。その動物を飼いきることができるかどうか、厳しい自己分析をしてほしいのです。その動物に何を望み、その動物の肉体的・精神的衛生を保つためにどのぐらい時間と金銭を割くことができ、毎日どのぐらい家を留守にし、飼うことであきらめなくてはならないあれこれ(犬ならたとえば掃除してもどうしても部屋の隅に毛が溜まることとか)をどれだけ我慢でき、そしてその動物のために常に学習しようという気持ちを持ちつづけることができるかどうかです。
余計なことまで申し上げました。私はどうも珍しい動物を生きたぬいぐるみがわりにしようという方に対し、とてもうるさいようです。
動物といっしょに暮らすということは、つきつめれば生命に対する尊敬の念を抱くとか、生き物の美しさ、豊かさに心が満たされることだと考えています。動物を飼えばお子様がいない寂しさを紛らわしてくれるかもしれませんが、少なくともチンパンジーにその役割はムリです。人間の子供ではありませんから。
お礼
ご丁寧な回答を頂きまして有り難うございました。一時の盛り上がりで 飼おうなんて決意するものでは有りませんね。目から鱗が落ちる思いで あります。犬は昔から飼っておりましたが、あまりの熱の入れように 犬が付いてこられなかったのでしょう。割とすぐに他界してしまいます。 何れにしても、先立たれる辛さは一緒ですよね。冷静に考え直したいと 思います。有り難うございました。