非定型抗酸菌(Atypical Mycobacterium 普通AM症と呼んでいます)は、私たちの生活環境に広く分布していて、特に湿り気の多い環境に生息しています。ヒト型結核菌は人の体の中でしか生きることができないように進化した特殊な抗酸菌ですが、これに比較するとごくありふれた菌といえます。
非定型抗酸菌症は、結核菌に比較して菌の毒力が弱く一般的には日和見感染(体の抵抗力が落ちていたり、感染しやすい状況があるときに感染が成立すること)として認識されています(エイズに合併した非定型抗酸菌症は大変大きな問題になっています)。
したがって、非定型抗酸菌症の合併症で気管支拡張症がおきたのではなく、気管支拡張症がもともとあったため、そこに非定型抗酸菌の感染を引き起こしたと考える方が自然です。
まず診断についてですが、結核の場合は人の体の中にしか存在しないため、痰や胃液などの検体から1コロニーでも結核菌が証明されれば結核の診断がつきますが、非定型抗酸菌は自然界に広く存在しているために一度菌が証明されただけでは診断とはなりません。少なくとも2回以上同一種類の病原性のある菌を証明しなければなりません。(診断基準があります)
菌の種類は数十におよびますが、人に病原性を持つものは多くありません。
Mycobacterium Avium Intracellulare Complex(MAC症 マック症と呼びます)とMycobacterium Kansasii(カンサシ症)の二つが人への感染としては代表的なもので、感染の大半を占めます。
カンサシ症は、非定型抗酸菌の中では最も毒力が強い菌ですが、抗結核薬に対する感受性もあり、治療にもよく反応するので一般的には結核に対する治療と同様に考えてよいでしょう。(結核は、3-4種類の薬を6ヶ月から9ヶ月服用します。もう少し治療期間が長期になることもありますが、耐性菌でない限り治療の効果は期待できます。)
問題はマック症の場合です。この菌は、抗結核薬に対する感受性が低く(というより大半は感受性がない)治療期間が長引いたり、難渋することがしばしばです。ただ、4-5種類の薬を組み合わせる(結核に使用する3-4種類の薬剤に1-2種類の薬剤を追加して投与します。大半は内服薬ですが、注射薬もあります)ことによって長期投与で効果が認められることも多いので、検査室での感受性がなくても直ちに治療薬剤がないということにはなりません。これが、同じ抗酸菌であっても多剤耐性の結核菌とは大きく異なるところです。
外科的な治療については、すぐに適応になることはあまりありません(膿瘍を形成して肺の外に穿破するような可能性がある場合などは考えることもあります)。しかし、6ヶ月以上、多剤の薬剤を使用しても繰り返し排菌が確認されるときは適応を考えます。特にマック症の場合は、治療が長びき徐々に悪化していくことがあるため、限局性の病変で比較的若い方などは手術を考えることがあります。
最もお知りになりたい治療期間についてお調べになっても記載がないのは、非定型抗酸菌症のなかで最も多くみられるマック症(70-80%)において、治療の効果を予測することが困難であることや、感染を起こしている患者さんの全身状態や基礎疾患によって経過に大きな差が出るというのが大きな理由です。
最後に、この非定型抗酸菌は人から人への感染は確認されていません。一般的には感染しないと考えられています。したがって、周りにいる人に対する感染予防対策は必要ありません。
お礼
早速、回答ありがとうございます。 わかりやすい説明で大変よくわかりました 私は通常土日しかインターネットを利用していないため、御礼が遅れてもうしわけありません。