スタジオジブリ最新作について

質問

宮崎駿監督最新作「君たちはどう生きるか」は、劇場公開時の映画ランキング初登場1位を獲得したけど、2週目以降は順位が下がり、しかも返り咲き1位になれなかったなんてみなさんはどう思いますか？

僕的には本作は「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」並みに大ヒットしてほしかったです。

回答No.1

noname#259322 · ベストアンサー

現在「君たちはどう生きるか」の興行収入は約85億円だそうです。

公開前の宣伝はいっさいなし、内容を窺わせるのはあの不思議な鳥の1枚と、上映2週間前にようやくつけたされた「冒険活劇ファンタジー」の一言のみと、「宮崎駿監督」ブランドに全面的に依存した広告戦略でこの結果は素晴らしいの一言ではないでしょうか。

（事前に広がっていたネガティブな空気、たとえばあのタイトルが「説教臭い」と捉えられがちな点や、直前に報じられた醜聞が足を引っ張ったであろうことを考えればなおさら。）

衰えたといえどジブリ、もっといえば日本人に何十年かけて刷り込まれた宮崎駿監督への信頼と期待がなければ決して到達しなかった域でしょう。
（ジブリの前2作、宮崎駿監督が関わらなかった映画の興行収入はそれぞれ3億円、1億弱だったんですから。）

この、大ヒットと呼べる堂々たる数字を前にすれば、上映ランキング1位が続かなかったことは些末事にすぎないように思います。
正直言ってなぜ質問者さんがそこにこだわるのか不思議です。

ですがご質問に沿って、1位を連続して取るには何が必要だったか、無限列車なみの興行収入に何が必要だったか、私がわかる限りにはなりますが整理してみようと思います。

映画が初登場から1位を突っ走り続けるためにはいくつかの要素が必要です。
まず潜在的な顧客がたくさん必要です。

宣伝そのものでなくとも、多くの人に「この映画を見たい」と思わせる何かです。

宣伝費ゼロにしては、「君たちはどう生きるか」は上手くやったと思います。ジブリでしか成立しない広告戦略とも言えます。

ただ、そのジブリも「千と千尋の神隠し」で304億の記録をうちたてたた背景には、大手広告代理店はじめ各企業と「チーム鈴木」と呼ばれた宣伝協力体制による大量の宣伝の洪水での攻勢がありました。

たとえば、
＞鈴木氏は「カチンときて、火がついた」そうで、公開スクリーン数を「もののけ姫」の倍にし、倍の宣伝費をかけた。
出典：日本興収１位「千と千尋ー」分析者の一言で思わず火（日刊スポーツ）
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201903250000385.html

＞「人間は３回広告を見れば消費に走る」。代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫さんの持論だ。３０４億円の収入記録を打ち立てた「千と千尋の神隠し」（２００１年公開）の場合、目標動員の２８００万人に３回ずつ広告を見せるというすさまじい物量作戦を立てた。
出典：ヒットの秘密　ジブリの大博覧会＜下＞宣伝力　物語の本質を伝える【コラム】（アルトネ）
https://artne.jp/column/666

＞日本テレビやディズニー、三菱商事、電通、博報堂といった出資会社と、ローソン、読売新聞、第一興商といった協賛会社との連携が非常にうまく行って、興行に大きく寄与したことは事実です。
出典：スタジオジブリの歴史 - スタジオジブリ｜STUDIO GHIBLI
https://www.ghibli.jp/history/

一話完結のストーリーで原作もない「千と千尋の神隠し」には宣伝が必要でした。

こういう事前に「観たい人を増やす」空気を作れなければ、潜在的な顧客が映画館に詰めかけるということがありませんから、1位を維持できません。

ちなみに「劇場版　鬼滅の刃　無限列車編」は、劇場版自体の広告自体は質量ともに「普通」です。他のアニメ劇場版と変わりありません。しかも、読者は3年も前に話の展開をすでに全部知っています。
ですが、「鬼滅の刃」は前年2019年のアニメ化がきっかけで社会現象を引き起こしていました。
アニメ終了後も漫画の売り上げが衰えない、それどころか右肩上がりが続くというアニメ化漫画史上初の作品となり、この11月12月にはオリコンランキングをほぼ独占します。（ちなみにその翌年11月には「ほぼ」ではなく「完全に」漫画売上ランキングを既存刊だけで独占するというオリコン史上初の記録も打ち立てています。）
こうした社会現象化は、アニメ制作会社であるアニプレックスがヒットさせるべく地道に種をまき続けてつかみ取った結果でもあります。
いまや「製作委員会さん改行は、アニプレックスかそれ以外に二分される」※とまで言われる業界最大手は、「鬼滅の刃」第一期を放映するにあたって、できるだけ数多く、幅広くの放送局、配信を得るために数千万円の自腹を切ったとも言われます。
放送前からアニプレックスは「鬼滅の刃」に非常に強い期待をかけていたんです。

※…出典：週刊東洋経済2023年5/27日号、p.54)

そしてそのアニプレックスの尽力に応え、「鬼滅の刃」は多くのファンを獲得しました。
「劇場版無限列車」はこの第一期の例を見ないほどの大成功を受け、公開前から非常に多くの人の注目を集めていました。
たとえば、ムビチケの販売数は2020年の9月10月分に最高記録を出しています。
＞月間販売枚数の新記録を2ヶ月連続更新
https://www.kadokawa.co.jp/topics/5020/
また、予約券の販売が始まると、大手映画館のサーバーをいくつか落としています。
この劇場版の事前の空気が過熱していることに映画業界が気が付いたのは、実はかなり直前になってからと思われますが（たとえば東宝が動いたのは8月等）、「鬼滅の刃のこの劇場版を見たい」という期待は相当なものになっていたのです。
その結果が10日間で100億越え、上映回数が多いことが話題になりながら、それでもなお多くの映画館で「座席数が足りていない」という状況だったのです。
そしてこれが「君たちはどう生きるか」に足りていなかった要素です。
ジブリの興行収入上位が上映されていたのは10年以上前です。有名作品のほとんどは30年から20年前。
一部作品はTVで放送はされますが、配信サービスに加盟しないため、若者世代は上の世代ほど見たことがありません。
なのに前情報が一切なかったため、「観たい客を多数作っておく」には少し足りませんでした。
だからランキング1位を突っ走れなかったのです。

さて、1位を撮り続けられなかったとしても、興行収入で「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の記録に迫る、あるいは塗り替える目はまだありました。
映画を見た人々がこぞって「良かったよ！」と興奮気味に周囲の人に話せば、大勢の人が興味をそそられ、映画館に足を運んだことでしょう。（無限列車もそういう理由で見た観客が一定数いました）
そうすればロングランヒットは間違いなく、そうやって口コミで徐々に興行収入を積み増して記録入りした映画も多数あります。

ただ、残念ながら「君たちはどう生きるか」にはそれに応える力がなかったようです。
初週の興行が終わって聞こえてきたのは賛否両論です。絶賛する感想も多かったですが、非常に苦々しい感想も同じぐらいありました。

宮崎駿監督の前の映画2014年の「風立ちぬ」と比べると、初週興行収入がそれを物語っています。
「風立ちぬ」の興行収入は約120億円です。宮崎駿監督作の中では5位です。
この「風立ちぬ」の初週（初3日）の興行収入は9.6億円と言われます。そこから内容で伸びて100億円を超えました。
一方、「君たちはどう生きるか」の初3日間は約16億円と、「風立ちぬ」を大幅に上回っています。
これは国内の「初3日間ランキング」でも歴代16位のすごい数字です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%AD%B4%E4%BB%A3%E8%88%88%E8%A1%8C%E6%88%90%E7%B8%BE%E4%B8%8A%E4%BD%8D%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB%E4%B8%80%E8%A6%A7#%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E8%88%88%E8%A1%8C%E8%A8%98%E9%8C%B2

＞公開初日からの月曜祝日を含めたオープニング4日間での興行収入は21.49億円と『千と千尋の神隠し』超えのロケットスタート。前作『風立ちぬ』対比でも150%超えの好スタートとなった。
出典：
https://mjwr9620.hatenablog.jp/entry/2023/08/24/175814

ところが、「君たちはどう生きるか」はここから失速してしまったんです。急激に。
これは作品を見た人たちによる口コミがそこまで作用しなかった、つまり内容が「他人に熱っぽく勧めるようなタイプの作品ではなかった」からではないでしょうか。
そしてそれが無限列車との違いでもあります。

ずいぶん駄文を綴ってきました。
私は宮崎駿監督作のジブリ映画で育った人間でもあります。でも、だからといって、「ジブリの宮崎駿監督だから、今の記録を覆すほどの大ヒットをしてほしい」とは思いません。思えません。
あくまでも、内容が素晴らしいとか、何か心に響くものがあってこその評価の一つとして興行収入がついてきてほしい。

そして、第1位を連続できなかったとか、他の映画と比べてどうだとかはやはり些末事に感じます。
私は「鬼滅の刃」の大ファンでもありますが、興行収入だけが面白さの指標ではないとも信じてます。
ご質問に対しては、ちょっとどうも共感も同意もしかねる、というのが回答でもあります。

長々とした回答になりましたが、ご覧くださりありがとうございます。

お礼

評論家みたいな素晴らしい文章で良かったです。
ありがとうございました。