まず、電車の形をイメージして下さい。
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もし、これが乗用車のような薄い鉄板で出来ていて、そのうえラッシュ時に定員の2倍超のお客さんが乗ったとしたら…
車体中央が撓んでしまいますよね?
その上、何両も連結するので前後の引張力にも耐える必要がありますし、衝撃にも耐えうる強度が必要でしょう?
ですから鉄道車両の筐体は必然的に相当丈夫に作る必要があり、太い骨材と分厚い鉄板で組みあがる事になるので、結果的にとても丈夫で長持ちする物になるのです。
なお車両の耐用年数は、物理的耐用年数と経済的耐用年数(後述)を考える必要がありますが、少なくとも物理的耐用年数は新幹線車両でも20年超、車体のストレスが少ない普通鉄道(在来線)車両では手入れ次第では60年は持ちます。
ただし鉄で出来ている物体の宿命で腐蝕による劣化が必ず起こりますので定期的なメンテナンスは必須で、また当然多少の腐蝕は起こりうる事を前提として必要最低限の強度を上回る厚さの鉄板や骨材を使用する事になり、必要以上に重くなってしまいます。しかしそれでもメンテナンスを怠ると寿命も短くなります。
そうした問題の解決のため、最近の車両はステンレス製のものが増えました。工作は難しく材料代も高いので製造コストは高くつきますが、腐蝕による劣化を考えずに済むので薄くて軽い車体にする事ができ、メンテナンスのコストが殆どかからない上、軽量化によって動力費(電気代や燃料代)を抑える事ができ、そのうえ線路に与えるダメージも少なくなるので線路の保守費用も抑えられるなど、さまざまな利点があります。なおステンレス車体も経年により金属疲労のような状態になり、やがて寿命を迎えますが、その時まで車体は殆どメンテナンスフリーと言ってよい代物です。
そして、お待たせしました、電車の寿命です。
先ほど申し上げた通り、メンテナンス次第では60年は持つ、と申し上げましたが(実際に60年以上長生きした鉄道車両はいくらでもあります)、実のところ長持ちした車両も外板などは相当な部分が張り替えられていたりしますし、内装はもちろん、床下にぶら下がっている機器類もかなりのものが取替られています、車輪もまず取り換えられていますから昔日のスポーク車輪など一部例外を除いてはお目にかかれません。古い車両も車輪はたいていの場合「タイヤ」と「輪心」が一体となった現在主流のタイプのものに取替えられています。
つまり、長生きしている車両にはメンテナンスに相当なコストがかかっており、またそうしたメンテナンスを行う事が出来る技術を持った人材も必要(人件費、養成費などのコスト増大要因)となるわけです。
そこで鉄道会社それぞれの経営姿勢が反映され、それらが経済的耐用年数に結びつくわけです。
平たく言えば、
(1)【作るコストを大きくし、メンテナンス費用を抑える】
VS
(2)【メンテナンス費用を大きくし、作る費用を抑える】
という事です。実際の所JR東日本は前者の立場、JR西日本は後者の立場、という事が最早通説となっています。
なお、鉄道車両の減価償却期間は今では24年が普通で、13年というのは一部の「コスト半分、寿命半分」というJR東日本車両に対する特例だったかと記憶しています。
(蛇足ながら209系が登場した時、マニアから「走るンです」と渾名されました)
そして、例えば建物等が減価償却期間の倍は持つ、等と言われているのと同様、やはり鉄道車両もその倍ほど持っている例は数多あります。
最後に、思いつくまま(1)と(2)の得失を記述しておきます。
(1)の利点
・メンテナンスコストが安上がり
・常に最高性能の車両を投入する形になるのでスピードアップがし易い→競争力↑
・同じ理由で旅客接遇面の品質向上が容易→競争力↑
・同じ理由で省エネ効果大→動力費↓
(1)の欠点
・新製コストが高くつく
・固定資産税が高くつく
・メンテナンス要員を減らすがため、技術力低下を招く
・伝統的技術を生かせず、初期故障などのリスクが増大
(2)の利点
・新製コストが安上がり
・固定資産税が安上がり(減価償却期間を過ぎた車両は基本的に固定資産税がタダ)
・人件費はかかるものの、メンテナンスに必要な技術力が維持できる
・ある程度古い車両の方が現場サイドの慣れや蓄積した技術により案外故障は少ない
(2)の欠点
・メンテナンスコストが高くつく
・一部新車両を投入しても同じ線路を遅い旧車両が走っている状況ではスピードアップは困難
・車両の内装など多少手をかけても陳腐化は否めない
・車両の省エネ性能が劣る場合がある
お礼
なるほど、ありがとうございました。 たしかに大阪に遊びに行ったときに見てきたので、わかりやすい例えでした。 車両自体は使えるのが前提で、あとはどうするか、という話なんですね。 ありがとうございました。