恐らく明確な定義、分類は、少なくともアカデミックにはなされていないと思います。なされていれば楽理本に説明があるでしょうから。
ですから、「どうもこうではないか?」という私見をまとめてはみますが、これが正しいかどうかは別問題です。
まず、カタカナ語の「スケール」は、ほぼ間違いなく日本語訳は「音階」です。では、音階とは何か? 説明しようとすると「そういえばなんだ?」と戸惑うと思います。それでも、メジャー・スケールやマイナー・スケールという言葉は、問題なく使っていると思います。他の方が述べているように、調性を前提とした曲で、「この曲はメジャー・スケール/マイナー・スケールの曲だ」と言ったりしますから、逆に言うと、ある曲が調性を前提にしていれば、スケールの長短を問題にできることになります。
ところが、では「調性」とはなにか? となると、これまた説明できないんですよね。他方、ドリアンの曲があったとして、その曲を聞いて「調性がない」と言えるか?? むしろ、調性はあると思える方が大多数ではないでしょうか? それこそ、12音階とか無調と言われるものに比べて、俗に言う「モードの曲」は、あまりにも整然としていて、なんらかの調性があるように思えることがほとんどではないかと思います。他方、だからと言って「調性とは何か」を明確に説明できるわけではない。こういった、基本的な概念が、そもそも音楽では曖昧なんだと思います。
他方、もしメジャー・スケールを所与として受け入れてしまうと、俗に言うモードは、スケールの並べ替えとして説明できます。平均律を前提にすれば音名は何でもいいので階名で言うと、トニックによってモードが区別されることになります。すなわち
ド イオニアン (ナチュラル・メジャー)
レ ドリアン
ミ フリジアン
ファ リディアン
ソ ミクソリディアン
ラ エオリアン (ナチュラル・マイナー)
シ ロクリアン
となります。ですから、メジャー・スケールを所与と考え、そのスケールを並べ替えたものがモード(mode 様相)と考えるのが、まずは分かりやすいと思います。
ところが、コード・「スケール」と言う考え方があって、この場合の「スケール」の中身がモードなんです。
例えば、C maj.の曲の中にDm7のコードが指定されている箇所があったとして、その箇所で使えるコード・スケールは何か? と考える場合、C maj.におけるDは階名のレで、Dm7はダイアトニック・コードに一致するから、コード・スケールは「Dドリアン」だ、と言ったりします。すると、「モードがスケールとはどういうことだ??」となるわけで、この辺をまともに説明した楽理本って、少なくとも当方は見たことがありません。(蛇足ですが、ドミナント・セブンス・コード向けのコード・スケールの特定は一般に厄介で、楽理本の記述はこの説明にほとんどが割かれていると言っても過言ではないと思います。)
だいたい、メジャー・スケールをモードで言えばイオニアンとなることからしても、スケールとモードってどー違うんだ?? となりますよね。
少なくとも当方が見た限りで、「慣習的にこの様に使い分けているのでは?」というところを、以上を踏まえてまとめると、
・曲全体が機能和声を前提としている場合、大本の主調(トニック・スケール→主音階)は、長短が区別された音階(スケール)で提示されるが、このスケールは、「調性の名前」である → 調性の名前がスケールで示される
・曲の一部について、「ソロで使えるコード・『スケール』」を問題にする場合は、コード・スケールの名前を「モードで」提示する。例えば、ドミナント・セブンスのコードが指定されている箇所のコード・スケールを、前後の脈絡から「リディアン7th」(リディアン・モードの第7音が半音下がったもの)だと判断する、など → コード・スケールの名前がモードで示される
ということになりそうです(この場合、モードの種類はスケール並べ替えの7種類よりはるかに多いことになります)。
他方で、それこそマイルス・デイヴィスが「モードの起源」と言われるときは、上で述べたようなコード・スケールの名前に使われるモードとは、かなり意味が違います。この場合のモードとは、「モーダル・ライティング」という、機能和声とは異なる作編曲の手法を指しているからです。この場合のモードは、中身自体は確かにドリアン、フリジアンといったモードではありますが、「モーダル・ライティング」では
・機能和声で説明できる部分があるかどうかは問題ではない
・「調性として」、特定のモードを使う
わけです。つまり、「曲自体が調性としてのスケールに基づいていることを前提として、その部分にあたるコード・スケールをモードで割り出す」という機能和声的な考え方ではなくて、「先に曲全体が基づくモードを定めてしまい、そのモードと曲の進行に合わせて、部分ごとのコードを定める」という考え方になるわけです(さらに発展すると、曲の中でもモードが切り替わりますが、譜面では機能和声か、モーダル・ライティングか、の区別は示されず、単にコードとオタマジャクシが書かれているだけですから、機能和声に基づくコード進行か、モーダル・ライティングに基づくモードの切り替わりかは、分析してみないと分かりません)。
カタカナ語で「モーダル・ライティング」との言い方は滅多に使われず、代わりに単に「モード」と言ってしまいます。このため、話の中に「モード」という言葉が登場したとき、コード・スケールの話なのか、モーダル・ライティングの話なのかが、必ずしも判然としない場合があります。
ともかく、以上を整理すると
・機能和声におけるモード: コード・スケールの名前
・モーダル・ライティングにおけるモード: 曲(の部分)が基づく調性の名前
ということになるかと思います。
ですから、
> また J-POPのギターソロに チャーチモードのドリアンスケールを使った場合
> これは モードと呼ぶのでしょうか? スケールと呼ぶのでしょうか?
この場合は、強いて言えばスケールです。ただし、上でも述べたように、「コード・スケールがドリアン」ということになり、このスケールは、曲全体が基づいている調性としてのスケールとは〈次元〉が違います。