現在の日本の先住民族権利運動については、国連における「先住民族の権利に関する国連宣言」が基本となっており、日本はこの宣言を批准したにもかかわらず、先住民族問題を抱える諸外国に比べて政府の対応が著しく遅れていたことに対して反発が大きいようです。
財産権の制限があるものの部族の主権を認めて形式的には対等の政府関係を認めているアメリカや、賠償には応じないものの先住民族への歴史的蛮行を認めて謝罪したオーストラリア、十数の少数民族を認定して自治を認める台湾などに比べると、アイヌが先住民族であることすら正式に認めずにいた日本の対応がいかにお粗末だったかわかります。
ようするに、この問題に関しても日本はお家芸ともいえる官僚的事なかれ主義を通していたのですが、国際基準を持ち込んで民族としての権利を主張する団体が先住民族サミットなるものを洞爺湖サミットに併せて開催するまでに至り、ようやく体面を取り繕うために「先住民族と認める」という国会議決を行ったのが去年のことです。
まずはこういった経緯を知っておく必要がありますが(詳しくは自分でどうぞ)それらを踏まえて回答してみます。自分は当事者ではないので一部誤認があるかもしれませんがあしからず。
(1)もともとアイヌは領土を有する主権国家ではなかったので、国は望みえません。多く望んでも民族固有の文化が継承可能な政策を行いうる普通自治体ないし特例自治体というところでしょう。なお、明治政府が彼らから略奪した広大な土地については権利を主張することもあるかもしれませんが、日本国憲法下における個人的財産権の範囲にとどまることとなるはずです。
(2)国連宣言等に準じてアイヌ権利団体が主張するのは、アイヌ民族が固有の民族であることです。政府が限定的に認めたとおり日本は単一民族国家ではありませんので、彼らがアイヌ民族を主張することと彼らが日本国民であることはまったく矛盾しません。
もし、矛盾していると感じるとすればそれはすなわち「アイヌ民族は大和民族に従属し保護されるべき土人であり、大和民族との同化を拒むなら日本国民とはみなさない」という近年までの政府見解と同じ価値観に基づくものです。
(3)明治以前にまで遡って財産権を完全回復となれば相当の混乱が生じるでしょうし、その代償として賠償を行うことも相当の困難を伴うでしょう。しかし、広大な国有地の一角をアイヌ自治体に譲与したり、儀礼祭祀のための伐採や漁撈のために特例的に規制を緩和したりするくらいならさほどの問題も無いでしょう。また大和民族と同等に、彼らの文化や歴史について研究し保全するための予算措置を講じることもまた然りです。
なお間接的影響ですが、アイヌ民族の歴史的経緯による財産権を完全に否定する場合には、いわゆる北方四島問題においてロシアに対する領土権の主張がいくぶん弱まることが懸念されます。(ジャイアニズムによる正当化に徹することも可能ですが国際的評価は絶望的に失墜するでしょう)
(4)そのようなことは当事者にしかわかりませんが、だからと言って邪推が許されると思うのは失礼なことです。それが許されるとすれば、それこそまさに民族的差別が存在することのゆるぎない証左といえるでしょう。
補足
回答ありがとうございます。 民族と認めるだけで済むなら、政府もそうすればいいんですけどね。 個人的には政府の見解はどうあれ、アイヌは固有民族として広く認知されていると思います。だからこそ、差別が発生し、同化政策を実施しようという気にさせたんだと思います。 あと、(4)の部分ですが、大きなお世話でしょうがその先住民族権利運動は、僕みたいな人から見たら、かつての部落運動と似ているように感じてしまうんです。(もちろん、主張内容は全然違いますが・・) 部落運動自体も、当初は差別に抗するというきちんとした目的があったのに、長い年月の中でそこに発生する巨大な利権に群がる人々によって、逆差別のような現象が起こるようになってしまいました。 そういった不安を抱かせる要素は 回答のような主張が明確にこちら側に伝わっていない、また金銭的賠償なのか名称問題なのか、歴史教育問題なのか、きちんとしたメッセージがこちらに届いていないように思います。 こういった現状は権利団体にとってもマイナスではないでしょうか。 いい回答ありがとうございました。