ここに質問されたくらいだから迷ってらっしゃる。
でも、興味を持たれたんですよね。
それなら、とりあえず手に取って読みはじめるべきです。
でなければ何事もはじまりません。
以上が大前提、読書の原則です。
読書は積極的に働きかける行為であって、
テレビのようにスイッチを入れておけば勝手に映るものではないからです。
このことを確認しておき、以下は参考程度に読み飛ばしてください。
※
この新訳、若島正訳は名訳の呼び声高いものです。
この小説はエロティックでグロテスクでナンセンスなものという受け取りで、
長い間このような一面からのみ読まれ誤解されてきたものです。
けれどもこれが現在、二十世紀を代表する小説の一つと評価されているのは
もちろんそうした面からではなくて長編小説という文芸形式の本道を指し示すものだからです。
それは言葉の組み合わせを駆使して、
人間というものの悲劇性、喜劇性を浮き彫りにするという広大な仕掛けのもので、
そのためのさまざまなテクニック(しゃれ、冗談、パロディ、パスティーシュはその一部)を凝らしてあります。
若島訳は、ナボコフの精神をただしく汲んで日本語に移し変えることに成功した、という評価なのです。
(小説をお読みになればすぐお分かりの通り、ベースになる英語はもとより、ロシア語、フランス語の素養も相当にないと歯が立たないものです。逆に言えば、それだけ困難があっても翻訳する価値が充分にあるということになります)
ただし、これはあくまで、たかだか小説ですから、読むほうはそんな苦労は知らなくてよろしい。
何語の素養であろうと、なくていいし、おもしろくなければ途中で放り出して一向に構わない。
けれども長編小説を読みきるには、やはり忍耐は必要です。
どこかでつまづいても、途中で興味を失った状態になっても、できるだけ読み切る努力は心がけてください。
これはこの小説に限ったことではなく、どんな長編小説についても言えることです。
そしてとにかく読み切って、しかし何のことだったかさっぱりわからなかった、が感想であっていいと思います。
読んですぐわかるものなど底が知れています。
ただ、単にエロ・グロ・ナンセンスだけではない、ということにお気づきになればいい。
そしてこれから何年にもわたって、ときどき思い返し、一部なりとも読み返してみる、
そういうふうになれば、この読書、この出会い、この作品を選んだことはあなたにとって成功です。
また、そういう種類の小説だと思います。
私自身がよくもわかりもしないのに、えらそうなことを述べました。
ま、とにかく気軽に手に取って読みはじめてください。
そしてブンガクの毒にあたってください。
お礼
長文のご回答、ありがとうございました。 今日、新潮社文庫版を買って、早速読み始めています。 第一部の1ページ目から、引き込まれる語り口で、とてもおもしろいです。しかし、注釈がとても多く、思ってよりも厚いので、とても時間がかかりそうです。ですが、頑張ってとりあえず読み切ろうと思います。