まず、これらは、「環境保護」「環境保全」という言葉であるということに留意します。
その上で、「保全」という言葉の意味を考えます。元々、この言葉は、技術用語で、maintenance の訳語として造られたはずです(あるいは、古くからあった言葉かも知れませんが、メインテナンスの訳語として一般的に使われます)。maintenance は、「保守」という訳語もあります。
保全・保守とはどういうことかというと、広い意味で、システムの運転状態、動作状態を一定の基準状態に維持し、基準からの「ずれ」が生じた場合、これを修復して基準状態に戻すことで、更に、ずれが生じる可能性がある場合は、ずれが生じないよう、予めに対応策を講じることを意味します。
「保全」とは、このような意味を元々持つ言葉ですので、「環境保全」は、環境状態を或る基準状態に維持する、また基準状態からずれることを防ぐため、防護策を講じることなどを意味するということになります。言語の自然な用法からは、そういう意味になります。
一方「環境保護」の場合、「保護」とは些か傲慢な言葉ですが、「環境保全」と区別する意味なら、単に保全するのではなく、過去に遡っての保全、例えば、ダム工事で破壊された環境・自然を、ダムを壊して、元に復帰させることは、過去に遡っての保全ということになります。
また、過去に遡っての原状回復は、自然環境などでは、ここ数百年とか数千年では不可能なことが多く、その場合、できるだけ、原状回復に近い形へと環境を戻すという意味になるでしょう。
滅亡しかけている生物の滅亡を何とか止めるのは、保全だとも云えそうですが、或る基準状態からの逸脱で、滅亡という事態は説明が付かないので、保全だというと、どんどん過去に遡る必要が出てきます。しかし、そういう過去に遡っての保全などは不可能なことが多く、滅亡をとりあえず防ぐための手段を講じる、というのは、「保護」になります。そこで、滅亡がくい止められれば、その状態を保全するのではなく、滅亡状態に再び陥らないよう、安全な個体数とか、環境を確保するなどの、より積極的な対応が必要になってきます。この場合、保全ではなく、「保護」になります。
以上のように言葉の使われ方を考えれば、普通にこれらの言葉の意味は、「環境保全」は、環境状態を基準状態に維持すること。または、基準状態が維持できない場合、代替的に、近似的な基準状態を維持すること(つまり、護岸工事で、ある植物の群落が消える場合、別の海岸に、よく似た環境を造り、そこに、破壊される植物群落の代替群落を造り、移動させるなどが、広い意味の「環境保全」になります)。
それに対し「環境保護」は、環境全体として、人間や諸生物、地球自身の無機的環境についても、バランスにおいて、「よりよいと思われる状態」へと、環境対策を講じるということで、単なる「保全」に留まらないということです。「環境保全」では、結局、時間の推移と共に、自然環境などは、どんどん破壊されて行きます。何故なら、破壊の結果の状態を、これ以上悪化しないように「保全」するので、保全には、代替保全もあるということからすれば、自然環境は、保全によって、「より良くなる」ことはないと云えます。現状維持で、必要なら、代替策を提示して環境破壊を許容するのですから、環境悪化・破壊を容認する対策だということになります。
自然環境、一般的な環境を、保全しつつ、しかし、それに留まらず、従来よりも「よりよい状態」にすること、これが「環境保護」の一般的な意味だと思います。「環境保護>環境保全」で、環境保全では、上で述べたように環境破壊は、最終的にはくい止められません。人間のエゴを満足させるため、言い訳として「保全」という発想が出てきているからです。
環境保全は消極的で、環境破壊を容認しているのに対し、環境保護はより積極的で、環境破壊をこれ以上容認しない、環境を「より良いもの」へと変えて行く対策、発想だということになります。