はじめまして。
なんとなく、学問関係のカテゴリより出張してきました。
子どもの育児や発達に関しては、実は科学的にはよくわかっていないような話が、勝手に一人歩きしてしまって信じられるようになったりして、いろいろなところで誤解があるようです。あと最近、怪しい話や教材が多くて困りますよね。右脳式トレーニングとか。
ご質問にあるようなテレビと育児の関係についても、テレビが子どもの発達にとって「悪」なのかは、結論が出ているわけではありません。しかし、ネットなどを拝見していますと、「テレビ=悪」という意見がいくつかあるようで。それに関連して、「うちはテレビを見せてません!」と、なぜか自慢気に語る人がいまして、そういうひとに限って「~~という人がこんなことを言っていた」「~~だと言われています」などと、根拠がすごく曖昧な感じです。そのような曖昧な理由でテレビが悪だと決めつけられると、教育テレビ制作者の人々もかわいそうだな~、と思ってしまいますですよ。
とりあえず、科学的な観察や実験のデータや知識をふまえて回答してみます。
> まもなく3ヵ月になるうちの子は、テレビが好きみたいで
> テレビの画面をじーっと見ることがあります。
> 見る前にはぐずっていても、テレビを見るとぐずりません。
発達心理学の実験で、「赤ちゃんは単純なものよりも複雑なもの、見慣れたものよりも新しいものを長く見続ける」という結果があります。ここから、「赤ちゃんは新しいものや複雑なものに興味をひきつけられるのではないか」と解釈されています。
ですから、質問者さんのお子さんに限らず、赤ちゃん~幼児の時期の子がテレビに見入るのは、画面が次々に切り替わって目新しい情報がどんどん流れているものに対して、興味をひきつけられているのだと考えられます。(赤ちゃんがどこまで真剣に見入っているのかはわかりませんが。途中で飽きて床でゴロゴロ遊んでいるかも/笑)
では、テレビを見続けるという状態に問題はないのか?
ここから専門的な話になってきますので、わかりにくかったらごめんなさい。テレビを見るというのは基本的に、赤ちゃんの目からテレビの画面の情報(視覚情報)が入ってきて、赤ちゃんの耳から音の情報(聴覚情報)が入ってくるという状態です。
■テレビをみることが問題ない点
○視覚や聴覚の発達には問題ない、豊富な刺激が良い可能性
○車や動物が動くというような「動画」を見ることができる
○現実の社会生活では体験できないことを見聞きすることができる
人間の「ものを見る能力/機能(=視覚)」というのは、生まれてから少し後~生後6ヵ月ぐらいまでに急速に発達する、ということがわかってきています。そのような時期にちゃんと外の世界を見て育った(=適度に視覚に刺激が与えられた)子どもは、ちゃんとものを見る能力が育つのですが、たとえばその時期に目隠しをされたなど、情報が遮断されて育てられた場合、視覚は発達しなくなるのです(ネコでの実験データがあります)。まあ、その後元の状態に戻すと、かなりの部分は回復するのですが。
そんな時期にテレビを見て育つというのは、脳に豊富な視覚情報がもたらされるわけですから、赤ちゃんの視覚の発達には別に問題があるわけではない、と考えられます。「ものを聞く能力/機能(=聴覚)」も同様です。テレビからいろいろな音や言葉が入ってくるわけですからね。適度にやれば良い刺激ですよ。
(ただ、テレビは1秒間に何回も点滅しながら画像を出しているので、それをずっと見続けると赤ちゃんの目に悪い、という影響もあります。過度に光ったり点滅するなどの演出の番組も同様ですね)
また、絵本では不可能なこととして、「動画を見ることができる」というのが、テレビの大きな利点でしょう。都会ですと、動物園に行かないと動物を見る機会も減ってしまって・・・。
さらに、なかなか行けないような外国の景色の映像や、昔の時代の映像や、日本生まれの親が自分では話せないようなネイティヴの外国語発音などが流れるのを見聞きできるなど、現実の社会生活では(なかなか)体験できないことを体験できるのもテレビというものの利点ですよね。
■テレビの問題点
○親や子ども自身が自分でテレビに映るものを操作できない
○テレビからは反応が返ってこない
○親と子のコミュニケーション時間が減る可能性
こちらに関しては、他の回答者の方々も熱心に語ってくださっているので、特に詳しく語ることもないのですが、テレビの番組は勝手に流れていくものですから、テレビに映るものを触ったり動かしたりできない、テレビの中の出演者に話しかけても返事が返ってこない、などが最大のテレビの欠点でしょう。
赤ちゃんは、母親と父親をはじめとする周囲の人間とコミュニケーションをとっていくことで、「愛着」を形成します。これが他のコミュニケーション(幼稚園の友達関係など)の土台となっていくのですね。あるいは、周囲とのやりとりのなかで、ことばを学んでいったり、「こっちはママで、こっちがパパ」といった、認識をつくりあげていくのです。
つまり、子どもの発達には両親をはじめとして周囲の人間とのコミュニケーションが成立すること、特に周囲が子どものアクションに反応してあげることが重要であり、子どものアクションに対して反応がない状況に置いておく、というのは、前頭葉の発達うんぬんの前に、子どもにとって最悪な環境なわけです。
前頭葉のなかの前頭前野という場所は、脳の中に入ってきた情報に対して、「手を伸ばして触ってみよう」というような意思決定を行なったり、行動する順序を決めたりといった、複雑な知的機能をあつかう場所だと考えられています。ですから、このような重要な意思決定や行動を考えるというようなことを行なわなくなるような状況、=周囲の反応がないような状況、が子どもの成長にマズいということ。
ちなみに、#3さんの文章にある
テレビを見る → 前頭葉の機能低下 → キレる子
テレビを見る → 無表情/無気力 → 心と体が育たない
ゲーム脳
というテレビの悪影響の論理は、科学的に立証されていないことなので、
簡単に信じないようにしてください。
#4さんがおっしゃるように、1日中ずっとテレビをつけっぱなしにするなど、親がテレビに育児を任せて子どもとコミュニケーションを取らないような状況が問題なのであって、テレビそのものが悪ではないのですよ。逆に、コミュニケーションをしっかり取っていれば、ある程度のテレビ鑑賞は問題ないかと。
長々書きましたが、まとめますと、極端なのはよろしくない。
テレビを全く見せないのも、子どもの貴重な体験の機会を奪っている可能性
1日中テレビの前というのも、親子のコミュニケーションを減らし、子どもの目にも悪い
そこで、まず両親をはじめとする家族が赤ちゃんと、頻繁にコミュニケーションをとる(ことばや泣き声にちゃんと反応する、返事を返す)ことが最も重要。そしてコミュニケーションをしっかりしたうえで、小さいうちは、ある程度の時間を決めて、番組も選んで見せるなら、さらに親子で一緒に見てコミュニケーションの道具にできるなら、テレビを見せることは問題ないでしょうし、育児にプラスにもなるのではないかと考えます。
必ずしも「テレビ=悪」ではないことがわかっていただけたら良いのですが。
#4さんのお子さんのように、好影響がでることを期待しております。
お礼
♯8にお礼を記入しています