現在の癌治療では、可能な限り体から癌細胞を除去する(手術)、癌細胞を殺す(抗癌剤、放射線)ということに目標がおかれます。これはなぜかというと、いわゆる免疫療法では、一般的に癌の進行を食い止めることが難しいからです。ただ、手術や抗癌剤などの治療ができないほど進行した癌や、全身状態が悪化している場合は、保存的な治療で体の免疫力を落とさないことも目標になります。疼痛の治療もそうですし、栄養療法もそうですが、できるだけ全身状態を良い状態に保つことがとても重要です。
抗癌剤について述べると、これは抗癌作用と同時に免疫抑制作用をもっています。
癌細胞と同時に正常の免疫機能を担っている細胞も殺すからです。一般的に、抗癌剤の治療は体の免疫能をある程度犠牲にして治療を進めます。
ですから、抗癌剤の投与が治療として成立するためには、癌細胞に対しては十分な抗腫瘍効果があるのと同時に、免疫抑制の副作用については、重大な感染症等の合併症ができるだけ少なく、短期間で回復可能という条件が必要です。抗癌作用にのみ目を向けていると、重大な副作用でかえって予後を悪くしてしまうこともあります。(もちろん、免疫抑制以外の副作用についても同様です。)
現実的には、100%癌細胞を殺し、副作用が全くない抗癌剤は存在しませんから、抗腫瘍効果と副作用の兼ね合いが重要になります。治療効果が得られ、なおかつ副作用に十分耐えられるだけの投与量というのが、慎重に決められるわけです。
一般的には、増殖速度の速い癌は、抗癌剤に対する感受性が高いことが多く、固形癌に比較すると血液の癌でも感受性が高いので、抗癌剤がよくもちいられます。
これに対し固形癌では、肝臓癌のようにあまり効かないものから、小細胞肺癌のように非常によく効くものまで様々です。
このように、抗癌剤は生体に負担を強いる治療ですし、抗腫瘍効果というのは癌の種類によってもまちまちですから、個々の癌について十分に検討して投与しなければならないことは言うまでもありません。
お礼
感染症で重篤な事態に陥らない程度の免疫抑制状態ならば是とするのが抗がん治療なのですね。大変丁寧な回答をしていただき有難うございます。理解を深めることができました。