時々誤解のある見解を目にすることがあるので回答いたします。
多少長くなりますが、ご容赦ください。
車両製造メーカーのラインから上がってきたままのオリジナルのボディ塗装は「焼き付け塗装」。
*近年のメーカーの塗料溶剤削減意識の高まりから、水性ベース、静電塗装、紛体塗装も焼き付けを行います。
この時に使用される塗料は、熱によって自己反応して硬化する原料を使用します。
内装などの樹脂パーツ類を組み付ける前に車体を塗装し、120℃~140℃の釜で焼いて塗料を高温で熱反応させることで重合(塗料の分子同士が堅固に連結する)する塗装です。
高温で焼くため、樹脂パーツ類はこの温度には耐えることが出来ません。
*バンパー、ドアミラー外殻、ドアハンドルなどのボディと同色の樹脂パーツは別途違うタイプ(後述の板金塗装で使用される塗料が近い)の塗装を行います。
対して、板金塗装で使用される塗料は、硬化剤を規定量(混合比率と使用期限が厳密に決まっています)混ぜ、化学反応させて60℃~70℃で加熱する「低温焼き付け」または「強制乾燥塗装」と呼ばれるタイプです。(硬化剤は、塗料を化学反応させるための起爆剤だと思ってください。)
塗料自体は吹き付けてしばらくすれば、溶剤が蒸発して塗膜が出来ます。
その塗膜が硬化剤による架橋反応(硬化剤が橋渡しになって、塗料の分子同士を繋ぐ)によって重合します。
赤外線ヒーターなどを使用して約60℃~70℃で40分程度加熱して硬化反応を促進させ、短時間で反応を終了させて強い補修塗膜を形成します。
塗装ブースでサウナの様に温風を循環させて乾燥を促進させたりもします。
自然乾燥も可能なものもあり、概ね72時間で硬化反応が終了します。(市販されているウレタンクリアの缶スプレー等がそうですね)
板金塗装では時間効率が悪いので自然乾燥は行いません。
★オリジナルの「焼き付け」と「低温焼き付け・強制乾燥」では塗料の質が全く異なるのです。
塗膜の硬度、耐候性、耐溶剤性など、オリジナルの焼き付け塗装が最も強い塗装となります。
車の塗装は、同じ色・同じ車種であっても、個体によって色味に濃い・薄い・赤っぽい・青っぽい・黄色っぽい・パール感が多い・少ないなど、生産ラインの塗装や使用する塗料のロットで微妙に違っていることが多いのです。
こういう現象を業界内では「色ブレ」と言います。
通常板金塗装では、個体の色ブレに合わせて基本ベース塗料を調色して入庫した車と比較し、微調整をして補修部分を塗装します。
*ピッタリに合わせても、ドアなどの側面に塗るとピタリと合うのに、ボンネットなどの平面を塗装すると違って見えたりする色があるのですが、その場合は全体が違和感なく、バランスよく見えるように平面に塗る塗料の色合いを別途調整したりします。
パールやメタリックカラーの場合、カラー塗装の後にクリアをオーバーコートしてカラー塗装を保護してツヤを出す設定になっています。
カラー塗装でボカシて、更に広めにクリアをオーバーコートしてクリアのボカシ塗装をします。
>塗装したての頃はなかった境目が、時間が経過するにつれて現れてくるというのは、どんな理由からなのでしょうか。
A:一つは、カラー塗装の塗料の材質が、オリジナルと板金補修の塗装では異なる材質であり、先に書いた耐候性にやや劣るため、青空駐車で直射日光に常時さらされると、紫外線の影響と経年変化で徐々に違和感が出てくるのです。
もう一つは、クリアのボカシ部の下地処理が甘いと、ボカシ際でのクリアの馴染みが甘くなり、うっすらと境目が見えたりします。
違和感を出さないきちんとした板金塗装では、
例:フロントドアを補修塗装する場合
*フロントドアを1枚全部塗装。
*フロントフェンダーの後半部分、リアドアの前半部分をボカシ塗装。
こうすることで、塗装を連続した面に見せるようにして、極力違和感を出さない様な塗装をします。
(先の回答者の方が書かれていますね。)
もちろん、ドア1枚の塗装や部分的なボカシ塗装より金額的に高くなります。金額が許されれば、サイド部全体を塗装する場合もあります。
>またそれは、どれくらい時間が経過すると現れてくるものなのでしょうか。
A:元のオリジナル塗装の色や経年状態によって異なります。
概ね、赤系統の色はソリッドカラー、パールメタリックカラー共に色焼けや色抜けが起こりやすいので、3年程度で出る場合があります。
*オリジナルの塗装が日焼けで色抜けして、塗装した部分は塗膜が新しいので色抜けが遅くなるので、濃く(黒っぽく)見えてくることが多いです。
中間色の薄いライトブルーメタリック系やライトグリーン系なども、やや出やすい傾向があります。
きっちり塗装されていれば、ソリッドのホワイトやブラック系・ダークブルー系などの濃い色は現れ難く、シルバーメタリックなども、5年やそこらでは出難いと思います。
(実際は違いが出ていても、色に敏感な人でないと気が付かない程度)
青空駐車の場合、補修塗装の下地処理が甘いと、ボンネットなど直射日光が当たってエンジンの熱がこもりやすい部分は、色あせや塗装の浮き、クリア層の剥がれが出やすい傾向がありますね。
車の持ち主の手入れ次第でも大きく差が出ます。
塗装は、仕上がりの良し悪しと時間の掛け方が金額に正比例します。
仕上がりに拘るのであれば、どこまでの仕事を依頼するのかをしっかり相談してお願いしてください。
安くあげたければ、「出来るだけ安くお願いします」と、塗装に出す時に伝えることが大切です。
職人さんの腕前が良ければ、金額も上がると思ってくださいね。
相手は板金塗装のプロ、職人です。下手に値切ったり、付け焼刃の知識で話すと印象が悪くなることがあるのでご注意を。
板金塗装工場それぞれで使用している塗料のメーカーと種類が異なりますが、塗料のランクが同程度なら、外国製、日本製で性能に大きな差はありません。
お礼
非常に詳しく書いてくださり、ありがとうございます。 私は部分塗装も、一度現車の塗装に合わせて塗ってしまえば、後は両方とも同じペースで褪せて行くものだとばかり思っていました。 自動車の鈑金塗装って芸術ですよね。