元・弦楽器の設計者ですけど・・・・製作側に必要なのは、純粋な演奏技術ではなく『演奏者が望むモノ(=好まれる音とか演奏し易い形状とか)が判る能力』『演奏者の主張と楽器の構造を結びつけられる工学的知識』です。
※『演奏者が望んでいるトーン(=よい音)が出せるか?』『演奏し易いか?』、等々が正確に把握出来なければ、よい楽器は作れません。
その楽器の良し悪しを調べる為には実際に演奏するしかなく、その為の演奏技術は必要ですが、違いが判りさえすればよいので第一線級の高度な演奏技術は必ずしも必要ではありません。
※更に。
演奏者が自分の楽器に対して何か意見を言ってきた時、『なるほど。それならあそこをこうすれば、彼の好みに近付けられるな』と、演奏者の注文と楽器の構造を結びつけて考えられれば、極論すると演奏技術は全く不要となります。
例として。
ソリッド・ギター(ボディに空洞がない、いわゆる『エレキギター』)の歴史の中で特に優れた設計者の一人として、クラレンス・レオ・フェンダーというギター設計者がいました。彼が設計したギターの多くは、今日では『未来永劫、その魅力が衰えることはない』とされているほどの名器ばかりですが、本職は楽器職人でも木工職人でも、勿論ギター奏者でもなく、ラジオの修理屋でありギターをはじめ楽器類は一切演奏出来なかったと言われています。
彼の楽器開発スタイルは・・・・まず試作機を何本か製作し、それをその時代の著名な演奏者に配布し、彼らの意見を吸い上げ改良を加えて販売モデルにまとめ上げるというもので、ギターは演奏出来なくても振動工学とギターの機械的構造(ギターに限らず楽器は、振動工学や構造力学に基く『機械』です)に長けていたことが窺い知れます。
ギター以外で斯様な開発スタイルを取った楽器製作者は聞いたことがありませんが、理論的にはこのスタイルでもあらゆる楽器の名器が設計出来るはずであり、実際そうやって楽器を作っていた職人もいたと考えられます。(たまたま開発過程の記録が残っていないので、今日では歴史に埋もれてしまっているだけ、ということです。)
・・・・っというワケですが、ワタシの場合はどうだったか?というと。
ワタシ自身はギターやバイオリン等の弦楽器を演奏します。正直なところバイオリン属はよく判らないところが多々あり、設計では『迷走』している点が常にありましたが、ギターに関しては個人的な好みがハッキリしており、故に常に万人向けでないモノばかり作っていました(だからまぁ、あまりもうからなかったワケですが。)
万人向け、というと特に高尚なクラシック系楽器ではあまりよい評価ではない様な気がしますが、しかし万人に認められなければ名器足り得ません。
なまじ製作者が演奏技術を持っているより、フェンダー氏の様に『自分自身はニュートラル』な姿勢の方がよい楽器が作れるのではないかと思います。
お礼
ご回答ありがとうございました。設計者の方のお話は初めて伺いました。 ギター設計者の名人の話は興味深いですね。読んで思ったのは、当たり前の事ですがああ最後に音(音楽)を作るのは演奏者なんだ、ということです。制作者はそのツールを作るプロなんですよね。 そうするとうちの子が出した音に自分で感動した、ということになってしまうのですが(汗) ただもっとあのピアノ弾きたい、弾きこなしたいと思わせるような楽器を作れるってすごいなあと思ってこのような質問になりました。知らない事ばかりでした。ご丁寧なコメントに感謝します。